日銀本店。衆院選後、「再び国債買い入れを増加すれば、財政や金融政策の信認をともに損ねます」と、木内氏は危ぶむ(撮影/長谷川唯)
日銀本店。衆院選後、「再び国債買い入れを増加すれば、財政や金融政策の信認をともに損ねます」と、木内氏は危ぶむ(撮影/長谷川唯)
長期金利と物価の動き(AERA 2017年10月9日号より)
長期金利と物価の動き(AERA 2017年10月9日号より)

 デフレ脱却をめざした過去最大の金融緩和が「店じまい」に向かいつつある。明言しないのは、政権の動向も気にするからだという。選挙の行方にも気をもむ。

【写真】長期金利と物価の動きはこちら

 日銀は衆院選に苦い思い出があるようだ。今回も与党の旗色が悪ければ、「金融緩和を拡大して、景気を持ち上げてほしい」などと求められるだろう。黒田東彦(はるひこ)総裁は断れるか──日銀関係者はそんな心配をする。

 黒田総裁は就任直後の2013年4月、「異次元の緩和」を打ち出した。国債の保有が年50兆円増えるように買い、世の中に過去最大量のお金を流し込む。お金の価値が下がり、相対的に商品やサービスの値段が上がる。政府とデフレ脱却の政策連携を強化し、物価を安定的に前年比2%上げる目標を設けた。「安倍晋三政権を最大限支援しました」(日銀OB)

●「はしごを外された」

 緩和に加えて14年4月、消費税率が8%に引き上げられ、物価も前年同月比3%を超えて上昇。だが、1年半後に税率10%への再引き上げを控えていた。政府との連携に沿って景気の冷え込みを防ごうと、日銀は14年10月、緩和を拡大して国債の買い入れを年80兆円に積み増した。

 ところが翌月、安倍首相は衆院を解散。税率引き上げの先送りを訴えて勝利を収めた。国債を「買い過ぎ」と批判を受けながらも緩和拡大に踏み切っただけに、「政権にはしごを外された」(日銀幹部)。日銀の一部には、この記憶が残るようだ。

 15年4月には物価上昇率が2%を大きく割り込み、緩和のあり方に疑問の声が噴き出した。日銀内でも木内登英(たかひで)審議委員(当時、現・野村総研エグゼクティブ・エコノミスト)は買い入れを年45兆円に減らすように提案。木内氏の試算では、増加を年60兆円としても来年半ばには「在庫切れ」で限界に達する。

「14年で副作用が効果を上回りました」(木内氏)。国債市場が「品薄」で価格が乱高下しやすい。金利が低く抑えられて金融機関は運用難の半面、国は借金しやすい。「日銀が国の借金を支える」という批判は、日銀も避けたい。逆に将来、物価と連動して金利が上がる(国債価格が下がる)と日銀が損失を被り、国も借金の負担が重くなる……。

次のページ