小島慶子(こじま・けいこ)/タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族のいるオーストラリアと日本との往復の日々。近著に小説『ホライズン』(文藝春秋)。最新刊は『るるらいらい 日豪往復出稼ぎ日記』(講談社)
小島慶子(こじま・けいこ)/タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族のいるオーストラリアと日本との往復の日々。近著に小説『ホライズン』(文藝春秋)。最新刊は『るるらいらい 日豪往復出稼ぎ日記』(講談社)
あっという間に選挙モードにはなったけれど… (c)朝日新聞社
あっという間に選挙モードにはなったけれど… (c)朝日新聞社

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

【あっという間に選挙モードに…】

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 この頃「大義なき解散」という言葉をよく目にしますが、大義ってそもそもどういう意味なんでしょう? せっかくですから、ちゃんと調べておいたほうがいいですね。

『日本国語大辞典』を引くと、最初に「重要な意義」と出てきます。意義は「言葉、事柄、行為などが現実にもつ価値」ですから、大義なき解散とは「重要で現実的な価値がない解散」ということになります。安倍総理にとっては現実的な価値が大アリなのでしょうから、「大義なき」なんて言われて心外かもしれません。

 二つ目は「人のふみ行なうべき大切な節義。人倫の大きな筋道。君臣、親子、男女の道など」とあります。人として正しい道を守り通すことですね。政治家なら、国民の代表として、私利私欲抜きで政治を行うことでしょうか。

 もうちょっと見ていくと、「『大義親を滅す』の略」と出てきます。大義親を滅す……なんだか嫌な予感が。案の定「国家、君主の大事のためには、人として最も深いつながりの親・兄弟などの肉親さえもかえりみない。大義には自分の肉親をも捨てる。大義滅親」と書いてあります。

 私の両親の子供時代には「お国のために」が正義でした。国家に命を差し出しなさいと。やがて焼け野原で教科書に墨を塗った子供たちは、飢えと貧困から抜け出すために勤勉に働き、経済大国となった日本で次の世代を育てました。平和な日本しか知らない子供たちを。それが私です。

 大義という言葉を口にする時には、よくよく気をつけなくてはなりませんね。それは誰にとっての大義なのか。誰が誰に対して行うべきものなのか。

 そう遠くない日に、私たちは大義という言葉を今日とは違うものとして聞くかもしれません。今ふうにいうと、国難を乗り切るためのお国ファースト、かな。しがらみの内と外とでやりあっている人たちが、おなかの中では案外同じことを考えているのかも。

AERA 2017年10月9日号

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小島慶子

小島慶子

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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