「ユタが私のところへ行くよう依頼者にアドバイスする場合もあれば、神がかり的なことに意識が強い患者さんには信頼できるユタを紹介するケースもあります」

●痛みの共有と連帯

 那覇市出身の稲田医師は本土で経験を積み、約20年前に同市内でメンタルクリニックを開業。沖縄の精神医療の現場では、ユタと診療の両方にかかる人も珍しくないことを知った。

「近代精神医学の知識や価値観だけでは沖縄社会の現実に対応できません」(稲田医師)

 ユタにはつらい境遇を乗り越えた人が多い。そうした人がユタになり、カウンセリングを引き受ける。このシステムは「自助グループ運動と似ている」と稲田医師は解説する。

 沖縄社会でのユタの存在感を示す、こんな数字がある。

 琉球新報社が沖縄県内の20歳以上の男女を対象に実施した16年の県民意識調査によると、「あなたはユタへ悩みごとを相談しますか」との質問に、「よく相談する」「たまに相談する」と回答したのは16.6%。男女比は女性24.2%、男性8.7%。過去15年間の調査で同傾向を示し、女性を中心に一定の需要がうかがえる。

 県内の30代女性はユタの癒やしの力をこうたたえる。

「説教くさい言い方ではなく、私も苦しいことを乗り越えてきたから何とかなる、あなたも頑張って生きなさい、と励まされたような感覚に包まれます」

 稲田医師は言う。

「琉球古来の世界観に基づく原初的なカウンセリング機能を持つユタという存在は、『痛みの共有と連帯』という位置づけで沖縄社会に組み込まれています」

(編集部・渡辺豪)

※ユタ…『沖縄大百科事典』(沖縄タイムス社)によると、ユタは「神がかりなどの状態で神霊や死霊など超自然的存在と直接に接触・交流し、この過程で霊的能力を得て託宣、卜占(ぼくせん)、病気治療などをおこなう呪術・宗教的職能者。大部分が女性」などと解説されている

AERA 2017年10月2日号

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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