取材の前日は自身のライブで大いに盛り上がった。映画監督、ミュージシャン、建築家……。エミール・クストリッツァ監督はさまざまな顔を持つ(撮影/篠塚ようこ)
取材の前日は自身のライブで大いに盛り上がった。映画監督、ミュージシャン、建築家……。エミール・クストリッツァ監督はさまざまな顔を持つ(撮影/篠塚ようこ)

 カンヌの最高賞「パルムドール」2回のほか、世界3大映画祭すべてで受賞の経験を持つエミール・クストリッツァ監督の新作が公開中。生と死が交錯する、実話に基づくラブストーリーだ。

 エミール・クストリッツァ(62)の9年ぶりの新作「オン・ザ・ミルキー・ロード」は、にわかには信じがたい三つの実話にファンタジーをたっぷり詰め込んで作り上げた、クストリッツァ初のラブストーリーだ。

 三つとは、アフガニスタンの紛争で蛇が兵士を救った話、羊を地雷原に押しやって次々と吹き飛ばしたボスニアの男の話、1990年代のユーゴスラビアで英国人スパイの手から逃れようとした女を救った男の話だ。

 クストリッツァは言う。

「これらの話をラブストーリーでつなげて、1人の男の三つの側面を描いたら面白いんじゃないかと思ったんだ」

●戦時下も生を謳歌する

 舞台は戦時下にある架空の国。銃弾をかわしながらロバで前線の兵士にミルクを届けるコスタ(クストリッツァ)は、村一番の英雄と結婚するために難民キャンプから連れてこられた花嫁(モニカ・ベルッチ)と運命的に出会い、恋に落ちる。だが、彼女に執着する多国籍軍の英国将校が特殊部隊を村に送り込んだことで、村は壊滅。2人は逃避行を余儀なくされる。

 クストリッツァは1954年、旧ユーゴスラビア・サラエボで生まれた。旧ユーゴ激動の歴史を圧倒的なエネルギーで描いた「アンダーグラウンド」が、カンヌ国際映画祭で2度目のパルムドールを受賞。今回も「紛争の違った面を見せつつ」、死と隣り合わせの日常の中に「生」が息づく。ガチョウたちが羽ばたき、ハヤブサが音楽に合わせて調子を取る。戦火の中でも人々は冗談を言い、恋愛に夢中になり、休戦すればうれしさを爆発させて歌い踊り、飲み明かす。

「僕たちには、『生を謳歌する文化』がある。そこから生み出されるキャラクターは1分刻みで変化していくことができる。落ち着いていて美しい人が次の瞬間、予測できないような形で爆発したっていい。こうした人物たちから、僕はいつも物語を織りなそうとしているんだ」

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