砂糖精製所を経営する裕福な家庭の次男として生まれた彼はハーバードで学び、兄が継いだ家族の会社で働いたが、ビジネスへの興味を失って会社をやめてしまう。その後は、「90人の使用人がいるお屋敷で温室の花を育てて過ごす」など、


「趣味人」として人生を謳歌(おうか)する。

 兄弟でアジアを旅行した際は、江戸時代の日本の版画に魅せられてそれを収集。質や状態の良さで知られる6千点以上の浮世絵版画は、1921年にボストン美術館に寄贈されている。

 次第に印象派の画家たちにも興味を持つようになったスポルディングは、今回来日している、ゴッホ、セザンヌなどの名画もコレクションした。

「これは非常に個人的で、スポルディング自身の楽しみのために集めたコレクションです。とはいえ私は、スポルディングはボストン美術館を世界有数の美術館の一つにしてくれた個人慈善事業家の、もっとも偉大な一人だと思っています」

●ジャクリーンの手紙

 最後にもう一つ、アーキビストであるメルトンさんらが美術館にもたらした、宝物の話を。

「埋もれていた宝物を発見することは、アーキビストという仕事のエキサイティングな側面です。資料として貴重なだけでなく、歴史的人物の手になる書類や手紙など、そのもの自体が美術館の展示品になるような思わぬ発見もあるんですよ」

 とメルトンさん。

 ジャクリーン・ケネディからの手紙が、その好例だ。

 1963年、ファッションにまつわる特別展を開くことになり、美術館は、ファッショナブルなファーストレディーとして注目されていたジャクリーン・ケネディにオープニングパーティーへの招待状を送った。

 30年後、メルトンさんは、ジャクリーン本人から届いた返事の手紙を、アルファベット順に並んだ[K]のファイルから発見する。メルトンさんは言う。

「感謝祭の休暇は家族と過ごす予定だし、病気の父のお見舞いもある、だからオープニングには出席できないとわびた、かわいらしい手紙でした。よくよく日付を見ると、ジョン・F・ケネディ大統領が暗殺される8日前に書かれていました。実際は、彼女の家族に感謝祭の休暇はなかったはずです」

(ライター・福光恵)

AERA 2017年10月2日号