ふらりと入って気になる服を眺めていると、店の人がニコニコ寄ってきて、他にも似合いそうな服があるからとあれこれ持ってきた。どれも自分では選ばないようなものばかりです。思い切って次々試着。それは夢のような体験でした。自分の知らない、しかもちょっと素敵な自分が次々と立ち現れてくるのです。

 それから私はこの店にしか行かなくなりました。行くたびに自信が湧いてくるのです。それは自分が他の人よりも優れているとかそういう自信じゃない。自分はこういう人間なのだ、他人と違っていいしそれこそがすばらしいのだと思わせてくれた。私は自分で自分を捕まえたのです。

 今やすっかり洋服を買わなくなりましたが、それでも全然惨めじゃないのは彼女たちのおかげです。自分がわかれば多くの洋服がなくても大丈夫なんです。

 今や多くの人がネットで服を買う。でも人が人の服を選ぶって大切な行為だと思うのです。店員さんは本来「人と服の目利き」。本当の意味で人を生き生きと輝かせることができる人たちなのだから。

AERA 2017年10月2日号

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稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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