研究室の男性院生は、「どうとでも取れる」と冷淡だったが、女性院生たちは同じ占い師の文章を好んで読んでいた。当時、迷いが多かった。アラサーで社会に出ないまま博士課程まで来てしまった、臨床心理士になるか研究者になるか、就職結婚は──? 就活で落ち込んだときは、本を何度も読み返した。

「つらいときは悲観的になりがち。能力不足と考えれば落ち込むだけですが、『今は種をまく時期』とか、『冬の時期だからこらえよう』とか、苦しい状況に意味が見いだせる言葉があって、頼りにしていたんだと思います」(同)

 臨床心理士として働く現在、自身の仕事とその占い師の姿勢に、よく似たものを感じている。

「言葉を上手に選んで、相手を傷つけず、押し付けず、サポートする。受け取り手に委ねている部分が大きいんです」(同)

 臨床心理士で『野の医者は笑う』著者の東畑開人さんは言う。

「人が占いに行くのは、迷い、方向性を見失ったとき。すべてがバラバラで混乱しているとき、占いがつなぐ糸を考え、物語化してくれれば安心できる。ぼくらの仕事も似ていて、相手の話を聞いて、筋を見いだします」

 カウンセリングが浸透している欧米と違い、心療内科の敷居がいまだに高い日本では、むしろ占いが身近な選択肢では、と感じることすらある。

「人は当たったことしか覚えていないもの。『しょせんは占い』という思いがどこかにあって、外れたら『仕方ない』で済む。つまり、希望や勇気としての占いを求めているのでは」(東畑さん)

●「選択疲れ」が背景に

 最近、占いの使われ方がライトになったと感じる。

 前出の女性も、ここ1年好んで読むのは、具体的で軽い提案の盛り込まれたテキストだ。

「『ねぎらいの言葉をかけてみて』とか、『ゆっくり入浴して自分をいたわって』とか、ポップで、読むと元気になれる。同僚たちも読んでいます。先日、更新日にサーバーがダウンしていて、予想以上にがっかりしている自分に驚きました」(女性)

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