TOTOCOの常連客の高瑾さん(右)と店長の野口栄一さん。中国にもジェニーファンは多い(撮影/編集部・山口亮子)
TOTOCOの常連客の高瑾さん(右)と店長の野口栄一さん。中国にもジェニーファンは多い(撮影/編集部・山口亮子)

「断捨離」と言われても、なかなかモノが捨てられない。だが、インターネットのおかげで、実家の片づけや引っ越しで出るガラクタにも値がつく時代に。訪日する中国人が、家の片隅に置かれた中国骨董に高値をつけ、メルカリでどんどん遺品整理もできる。タンスの中は、宝の山だ。AERA 2017年9月25日号では「お宝流出時代」を大特集。中国人の間で注目を集めている、日本に残されている中国美術。その理由を探った。

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 東京・浅草橋にある人形専門店「TOTOCO」には4、5年前からよく中国人客が訪れる。店長の野口栄一さん(68)は言う。

「中国大陸では販売されていなかったリカちゃんより、ジェニーが人気。日本人だと平均客単価は5千円くらいですが、中国人だと2万~3万円で、一度に7体くらい購入していきます」

 ジェニーとは、リカちゃんと同じくタカラトミーが販売する着せ替え人形で、リカちゃんよりお姉さん格だ。人から頼まれてまとめ買いをし、店の外で荷造りして、そのまま郵便局に持っていくことも多いという。

 この店の常連客、女性会社員の高瑾(ガオジン)さん(27)は、上海出身で11年に来日し、今は都内で働いている。小学生のころに親にデパートでジェニーを買ってもらって以来、ジェニーの大ファンだという。

 高さんによれば、中国で特に人気なのは、タカラトミーが90年代末に中国で製造を開始する以前の日本製のジェニー。アリババグループなどの運営する中国のECサイト上で売買されることもあるが、値段は当時の価格の2倍程度はする。人気のものだと、6倍の値段が普通につくとか。

「中国では希少価値のあるドールはもはや骨董(こっとう)品のようなもの。すごく高いドールも日本では1千円くらいで売っていたりする。ガラクタだと思うんでしょうね。もったいないわ」(高さん)

 日本人の消費動向は、家電製品などモノを所有するモノ消費が落ち着き、個人の趣味やライフスタイルに重きを置いたコト消費に移っているといわれる。中国人もコト消費にシフトしつつあり、加えてそこでしか買えない希少性に引かれて日本でお宝を購入しているようだ。そんな中国人の視線は、日本にある中国美術にも注がれる。正倉院に中国由来の美術品が収蔵されているように、日本人の中国美術の収集歴は長い。加えて明治時代以降、混乱が続いていた中国から、日本の古美術商や富裕層が大量のコレクションを収集した。それが、タンスの中に眠っている。

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