日米同盟に詳しい近畿大学の吉田真吾講師は「核の拡大抑止には、同盟国に備蓄するより文書などで意思を表明するほうが効果的という研究結果もある。日本に米国の核を持ち込み抑止力を強めるなら、いずれは共同管理・運用の問題も浮上し、『持ち込ませず』の話にとどまらない」と指摘する。

 北朝鮮の核実験を受けた非核三原則をめぐる石破発言や安倍政権幹部の冷淡さは、「成熟」の証しと見ることもできる。

 2006年10月の初の核実験は、第1次安倍政権発足から間もないころ。当時の中川昭一・自民党政調会長や麻生太郎外相は核保有論議の必要性に言及した。安倍首相は黙認したが、発言を懸念する中国の胡錦濤国家主席には翌月の首脳会談で「非核三原則の堅持」を強調した。

 今回、政権幹部から自主防衛につながる核保有論は飛び出しておらず、石破発言も、要は同盟強化論だ。北朝鮮の初の核実験後、米国は日米首脳会談などで核の傘の提供を重ねて表明。12年末からの第2次安倍政権は同盟強化に努め、国論が割れても首相が率先して憲法解釈を変え、集団的自衛権の行使を解禁し、安全保障法制を成立させた。

 冒頭の自衛隊高級幹部会同で安倍首相は「わが国を取り巻く安保環境を直視するとき、これらの政策は全く間違っていなかった」と強調。「国民の安全と地域の安定を維持するには日米同盟強化が不可欠です。助け合える同盟は絆を強くする。かつてなく強固だ」と胸を張った。

●あってもなくてもいい

 気になるのは、こんな安倍政権下での非核三原則が、核軍縮などの政策の指針というよりも単なる現状の説明になってしまっていることだ。

 冷戦終結直後の91年、当時のブッシュ米大統領は射程500キロ以下の「戦術核」の艦船搭載分を撤去すると表明。安倍首相はそれを根拠に「持ち込み」は「起こりえない」と国会で答弁した。

 米国の核の傘に頼るから「持たず、作らず」。「持ち込み」は起こりえないから、「持ち込ませず」はあってもなくてもいい。その程度のこだわりに聞こえる。(朝日新聞専門記者・藤田直央)

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