●肝心の東京には1割

 運営は保育事業者への委託が多く、そこに商機を見いだして参入する企業も出てきた。

 03年、東京・汐留に企業内保育所「カンガルーム汐留」を開設し、注目を集めてきた資生堂。今年2月、保育サービス大手のJPホールディングスと合弁会社「KODOMOLOGY」を設立し、企業内保育所の運営受託を始めた。参入の目的は何か。小林貞代代表(51)は言う。

「これまで『保育の質』は経験則で語られることが多かったのですが、科学的な根拠に基づく『保育の質』を追求したいと思っています」

 加えて、企業内保育所の、出産前の人たちや管理職と接点を持てるという特性にも着目。

「保育所がハブとなって、受託企業の風土も変えながら、子どもと共にある生活を支えていきたい」(小林代表)

 育休取得経験者で男性の育休についての情報発信をする、ワークスアプリケーションズの高橋俊晃さん(35)も、企業内保育所の影響力は大きいと感じている。子育ての現場は職場と切り離されていて、子どものいない人にとってはブラックボックス。結果、子育て中の人とそうでない人は気兼ねや臆測をし合ってギクシャクしてきた。

 企業内保育所は、そんな子育ての現状を「見える化」し、職場ではしづらい子どもの話をしやすくする効果がある。ふだん子どもに接する機会のない若手社員にとっては、将来の子育てを考えるきっかけになる。

「そこから相互理解の循環が生まれます」(高橋さん)

 もちろん、企業主導型保育事業にも課題はある。

 自治体が関与しない認可外施設で、保育士の配置基準も認可保育所に比べて緩い。「保育の質」を監督し担保する体制づくりは不可欠だ。16年には東京・日本橋の従来型の認可外企業内保育所で子どもの死亡事故も起きている。

 全国の待機児童の約3割を占める東京の企業主導型保育事業の施設数は、3月末時点で全国の同事業による保育所全体の1割未満。ネックは土地やスペースの確保だ。東京都は今年5月から最大300万円の設置促進助成を開始した。

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