考える人が、長考を抜けてついに思いついたら、どうするか。手を打って立ち上がるのではないか。石を握りしめるダビデは、投石器で石を投げ、ゴリアテを倒した瞬間があったはずだ。ラファエロの絵画を思わせる天使像は、小便小僧とも似ているのでは──。こうした動きは、可動式にして必要なパーツをそろえれば、実現可能なはずだ。

●ムンクの「叫び」が立体に

 原型師を務めた石橋たつやさんは、東京芸術大学大学院彫刻専攻出身。彫刻に造詣(ぞうけい)が深いと指名されたが、第1作「考える人」のオーダーを受け、機能性と手間やパーツのコスト面の課題を両立できるか、率直に「難しいのでは」と思ったという。

 資料を集めるだけではなく、静岡県立美術館に出向いて実物を観察し、どうすれば動かせるか、どんなパーツが必要か、打ち合わせを重ね、考え抜いた。

「少し体を傾けて座る実物の胴のパーツと、立ち上がる胴のパーツをどう両立させるか、試行錯誤の連続でした」(石橋さん)

 2015年1月、ついに第1作を発表すると、思いのほか反響があった。

 ムンクの「叫び」では、絵画の立体化に挑んだ。作品に描かれていない、あの人物の下半身をどう表現するか。石橋さんは、何枚ものスケッチを重ね、造形をつくりあげたという。

 こうした工夫と遊び心が話題を呼び、テーブル美術館シリーズは、ホビー商品では異例ともいえる累計6万個以上を売り上げている。

●フィギュア米国で人気

 来年1月には、写楽の浮世絵から立体に起こした、「三代目大谷鬼次(おおたにおにじ)の奴江戸兵衛(やっこえどべえ)」をリリース予定。この作品では、同じモデルを描いた浮世絵を集めて下半身の衣装を想定し、ふんどし姿に仕上げた。大小、大きさの異なる頭部もついている。

「浮世絵のインパクトと、フィギュアとしての格好よさ、どちらも楽しめるようにしたかった」(錦織さん)という。

 フィギュアはいつから、これほど精巧に、そして深くなったのか。日本を代表するフィギュアメーカー「海洋堂」の社長で、大阪芸術大学キャラクター造形学科教授も務める宮脇修一さんは、日本のフィギュアの歴史はまだ長くないと語る。

「日本はアニメや漫画などの2次元文化が盛んだったせいか、立体物にはなじみが薄く、1998年に私たちが『北斗の拳』塗装済みの可動式フィギュアを販売するまで、塗装済み完成フィギュアは一部の米国輸入品がほとんどでした」(宮脇さん)

次のページ