永瀬正敏(ながせ・まさとし)/1966年生まれ。相米慎二監督作品「ションベン・ライダー」で俳優デビュー。89年にジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」に抜擢された。主な映画出演作に河瀬直美監督「光」など。「パターソン」監督・脚本:ジム・ジャームッシュ。ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開中。今後、全国順次公開(撮影/山本倫子)
永瀬正敏(ながせ・まさとし)/1966年生まれ。相米慎二監督作品「ションベン・ライダー」で俳優デビュー。89年にジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」に抜擢された。主な映画出演作に河瀬直美監督「光」など。「パターソン」監督・脚本:ジム・ジャームッシュ。ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開中。今後、全国順次公開(撮影/山本倫子)

 ジム・ジャームッシュと永瀬正敏。映画ファンが心震わせるコンビが、27年ぶりに復活した。カンヌ国際映画祭をはじめ世界が絶賛した映画「パターソン」が日本公開となった。

 ジムさん。そう呼んだかと思うと、ジャームッシュ監督、ジャームッシュさん、と呼び方が変化する。「ミステリー・トレイン」に抜擢され、以来27年ぶりのジャームッシュ作品だ。

 永瀬さんの口元がほころぶ。

「最初はメールでした。『君のことを思いながら書いた人物がいるんだ。考えてくれるかい?』。もちろん、と即答したら、脚本を送ってくれました。とても重要な役柄で、これは大変だぞと身が引き締まる思いでした」

●世界配給できた奇跡

 舞台はアメリカのニュージャージー州パターソン市。バスの運転手で、自身もパターソンという名前の主人公(主演俳優はまさに「運転手」を意味するアダム・ドライバー)は、毎日妻と同じベッドで眠り、朝起きたらキスをし、バスを走らせ、帰宅して愛犬マーヴィンと散歩に出ていつも同じバーでビールを1杯だけ飲む。他人から見れば単調極まりないそんな日々も、彼には美しい些事がいっぱいにつまった時間である。そして忘れてならないのは、彼が詩を書く人であるということ。

「日常が愛おしくなる映画です。最近は、テロや社会情勢などにフォーカスを当てた作品が多いじゃないですか。そんな中、オリジナル作品で世界配給ができたことは奇跡だと思います」

 本作品は、これまた『パターソン』という名前の長編詩集を持つアメリカの詩人、ウィリアム・カーロス・ウィリアムズの詩にジャームッシュ監督が興味を引かれ、パターソンを訪れたことから始まる。映画の後半に登場する永瀬さんはスーツにネクタイ、眼鏡というスタイルで日本の詩人を演じており、その手にはウィリアムズの本が。そして、あるアクシデントから失意の状態にある主人公と遭遇し、2人は詩についてしばし言葉を交わす。

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