「SEALDsを中心に安保法制抗議で多くの人が国会前に集まっていたような時期に、同世代の音楽人と酒を飲んで喋ってても、会話に安倍の『あ』の字も出てこない。そういう世界が厳然とある。これ同じ国なんかよ?という(笑)。まあ昔からそうなんやけどね、やっぱり和を乱さないようにとか、空気を読もうとか、そういう日本元来の精神風土も根深いよね」

 中川は今でもしょっちゅうデモや集会に現れるが、歌をうたったりスピーチしたりすることはめったにない。ほとんどの場合はただの参加者の一人だ。また、直接的なメッセージを歌詞に込めるタイプでもない。しかし、カウンターカルチャーとしてのロックは今でも彼のミュージシャンとしての原動力であり続けている。

●国家の代わりに友愛を 「イマジン」は理想論すぎ?

「夜のストレンジャーズ」の三浦雅也は3.11直後のことをこう回想する。

「震災と原発でみんな落ち込んでるときに、俺たちだけでもハッピーにいこうぜとか言ってるバンドとかすごいムカついた。自分はせっぱつまった気持ちになっていて、ステージ上でいろいろ言える立場でもあるからそういう話をどんどんしたんです。別にメジャーで売れてるバンドでもないのに、言いたいことも言えないのは間抜けだと思ってたから。けど、お客さんはやっぱり引いてる感じはあった」

 夜のストレンジャーズもキャリアは長いが、ソウル・フラワー・ユニオンとは違ってポリティカルなバンドとは見なされていなかった。しかしブルース・スプリングスティーンの影響を大きく受けた三浦が歌ってきたのは、「労働者だったりレジスタンスだったり、庶民の話ばっかり」で、彼自身「国家なんてなくなればいいと思ってる」という、きわめてオーソドックスなカウンターカルチャーの申し子だ。

 国がなくなった場合に、人は何をよりどころにすればいいと思うか。三浦に尋ねると、彼は長い沈黙のあと、こう答えた。

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