平岩俊司(ひらいわ・しゅんじ)/1960年生まれ。東京外国語大学卒業。朝鮮半島をめぐる国際関係などが専門。関西学院大学国際学部教授などを経て現職 (c)朝日新聞社
平岩俊司(ひらいわ・しゅんじ)/1960年生まれ。東京外国語大学卒業。朝鮮半島をめぐる国際関係などが専門。関西学院大学国際学部教授などを経て現職 (c)朝日新聞社

 核・ミサイル開発がますます加速する北朝鮮。予測困難な今後のシナリオを南山大学教授(現代朝鮮論)の平岩俊司さんが鋭く分析した。

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 北朝鮮の憲法には、すでに核保有国と書かれています。それを国際社会、とりわけ米国に認めさせようとしているのが現状です。口では核保有国と言っても実態とはギャップがある。そのギャップを埋めれば、米国も国際社会も認めざるを得なくなると考えているのでしょう。トランプ米政権との緊張が高まる中、来年の建国70年を待つということではなく、できるだけ早く、米国に届くミサイルを実質的に持って、米国や国際社会が公然と認めるような状況にしたいのだと思います。
●核がなければ滅びる

 9月3日の6回目の核実験と、昨年の5回目の核実験とでは、爆発のエネルギーが全然違いました。爆発力がかなり大きくなったということから、口で言っていることに近い状態まで来ているというのが、国際社会の一般的な見方となりました。これは、これまで北朝鮮の技術力や執念を過小評価してきた結果とも言えるでしょう。

 1990年代の北朝鮮は、核に対する野心を諦めることを交渉の材料にしようとしていました。それがいまや、核兵器を持つこと自体が目的となっています。核兵器そのもので交渉するのではなく、核兵器を持つことが交渉力になると思ったからです。米国に届く核打撃力を持つことができれば、米国は北朝鮮を無視できなくなる、要求に応じざるを得ないはずだとの思いがあるのです。核を持たなければ、逆にイラクやリビアのように滅ぼされるから、北朝鮮は絶対に核を手放せないのです。

 もちろん、米国が本当に軍事力行使に出たら困るから、さすがに米国本土やグアム周辺へのミサイル発射には慎重になってきました。それでも、米国の軍事力行使が簡単にはできないと思っているからこそ、ミサイル発射や核実験を繰り返すのです。軍事行動となった場合、韓国や日本にいる米国人をどう退避させるのか。北朝鮮には多くの国の大使など外交団がいます。人質にとられているようなものです。そういうところに米国は本当に戦争を仕掛けられるのだろうか。米国と比べ、北朝鮮は失うものが少ない。一か八かで向き合ううえで覚悟が違うのです。

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