観光や記念撮影を楽しむ外国人観光客が至る所で目立った平和記念公園だったが、ピューツさんは終始、言葉少なだった。普段はよく話し、陽気で冗談好きなのに、この日は大好きなSNS投稿用の写真もあまり撮らない。記念公園を離れて入った喫茶店で、何を考えていたのかを聞いてみた。

「復興、回復力、そして平和のメッセージをあちこちで感じた。広島には、平和を推進していくという強い意志がある。圧倒された」

 ピューツさんは前夜にインターネットで米国人の原爆に対する世論調査の結果を調べていた。終戦時、85%が原爆投下を支持していたが、15年には56%まで落ち込んだと説明。その理由を今日見つけたのだという。

「原爆の生存者たちの訴えが米国人にも届き、原爆を正当化する世論に変化が起きたのだと思う。私自身、偏見や差別、長期の健康被害など原爆投下後も被爆者たちを苦しめた社会的背景を詳しく知ることで、犠牲が何十万人という数字だけでは分からない被害の実相がよく理解できた。特に被爆者の小倉さんの言葉を直接聞けたことで、単なる歴史の知識だった原爆を、より現実のものとして感じることができた。広島を訪れて本当によかった」

 広島訪問時、米国では白人至上主義者と、それに反対する人たちの間で衝突が起き、暴走車に32歳の女性が殺害されるという事件が起きていた。ピューツさんはこの日、資料館を訪れる前、SNSで暴力を糾弾する議論に参加し、反対行動を呼びかけていた。戦時中に起きた原爆投下と、平和の時代に起きた暴力事件。より深く「平和とは何か」を考えさせられたという。

「広島は核兵器を『絶対悪』としても、それを投下した米国を憎しみの対象にせず、私を受け入れてくれた。米国では今、分断や憎悪をあおる大統領の下、白人至上主義や人種差別主義が再び顔を出し、憎しみをむき出しにしている。平和とは互いを認め合い、共生することだと強く思った。それがない人が暴力を起こす」

 そして、被爆者が核兵器廃絶を訴え続けるように、ピューツさんも行動すると強調した。

「沈黙していてはダメ。立ち上がる勇気を持ち、暴力や人種差別は絶対に許さないということを主張し続けなければならない」

(編集部・山本大輔)

AERA 2017年9月11日号