聴き手も、小さい頃から音楽に全身全霊を懸けた思いや、気合、命の力があるからこそ、心動かされる。人が己の限界をわかっているということも大きい。限界があるから、何とか突破しようと努力するのです。
一方、AIに限界はほぼありません。私がどれだけ練習しても、技能だけ考えれば、AIくんにかなうわけがありません。
でも社会人になった後、ジャズピアノに本腰を入れて、米国で初めてプロとセッションした時の驚きは忘れられません。自分が持っているもの以上のものが引き出された。
リスナーも、そこへいたる苦悩や努力が見えるから、感動する。ジャズはシンクロ。ちょっとハズしてみたら、相手はこう出てきたというキャッチボールを楽しむのですが、思いがけないものが出てくることがよくあります。それが音楽の醍醐味。聴く人にとってもスリリングですよね。
AIとは共存していきたい。足りないところをアシストし、刺激を与えてくれる第三者になってくれるといいのですが。(構成/ライター・福光恵)
※AERA 2017年9月4日号