小川理子(おがわ・みちこ)慶應義塾大学理工学部卒業。現在パナソニック執行役員、アプライアンス社副社長。音響開発者として活躍。1993年、ジャズピアノの演奏活動を開始。2006年、CDでメジャーデビューし、現在14枚をリリース(撮影/MIKIKO)
小川理子(おがわ・みちこ)慶應義塾大学理工学部卒業。現在パナソニック執行役員、アプライアンス社副社長。音響開発者として活躍。1993年、ジャズピアノの演奏活動を開始。2006年、CDでメジャーデビューし、現在14枚をリリース(撮影/MIKIKO)

 何やら聴き慣れぬ音色が近づいてくる。奏者の姿は見えない。正体は、新たな展開をみせているAI(人工知能)。人間と協調して演奏し、わずか数十秒で作曲もするとか。AERA 9月4日号ではAI時代の音楽を見通すアーティストや動きを大特集。

 将棋も囲碁もやられた。相手は“ハイテク黒船”AI(人工知能)だ。ネット上には作曲サービスも次々登場。敵か味方か。音響開発者・ピアニスト 小川理子さんに話を聞いた。

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 音楽が好きで、3歳からピアノを弾いていました。でも進路を考えたとき、音楽の道ではなく、大学で理系の道を選んだ。「自分には才能がない」と考えたからです。ただ、開発者と、ピアニストという二つの仕事を持つようになって、今は強く思います。才能とは、努力し続けて高みを目指すこと、また自分の五感や肉体を最大限に使って、見たことのない景色を生み出していくことなのではないかと。

 努力を続けていくと、無意識のうちに“自分”が演奏に出てくる。そして個性という、オンリーワンの魅力を感じさせるパワーが生まれます。それもこれも続けられるからこそ、世界が広がっていくのです。

 AIが音楽を変えるかというと、本質は変わらないと思います。これまでも、電子楽器などが生まれたことで人の表現の幅は広がった。コンピューターなら、100本の指でピアノの演奏もできる。人ができないことを補助することで、表現は劇的に進歩したと思います。

●音の姿は“アナログ”

 私はオーディオ開発者として、聴き方も、楽しみ方も変わってきた音楽の変化を間近に見てきました。そうして振り返ると、デジタル機器が登場したことも、ひとつの多様化。いいところをミックスして、多様な表現が可能になり、プレーヤーにとっては大きな恩恵です。その意味では、テクノロジーは音楽を変えると思います。

 ただし、音楽の本質までは変えられない。そもそも音は空気の振動というアナログ情報。完全にデータ化するのは、容易ではありません。

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