菊地成孔さん(きくち・なるよし)1963年生まれ。音楽専門学校でサックスを学び、バンドやユニットで活躍。2000年代は東京芸大などで講師を務めた他、文筆家、DJなど、多方面で才能を発揮。近刊に『菊地成孔の欧米休憩タイム』(blueprint)(撮影/関口達朗)
菊地成孔さん(きくち・なるよし)1963年生まれ。音楽専門学校でサックスを学び、バンドやユニットで活躍。2000年代は東京芸大などで講師を務めた他、文筆家、DJなど、多方面で才能を発揮。近刊に『菊地成孔の欧米休憩タイム』(blueprint)(撮影/関口達朗)

 何やら聴き慣れぬ音色が近づいてくる。奏者の姿は見えない。正体は、新たな展開をみせているAI(人工知能)。人間と協調して演奏し、わずか数十秒で作曲もするとか。AERA 9月4日号ではAI時代の音楽を見通すアーティストや動きを大特集。

 将棋も囲碁もやられた。相手は“ハイテク黒船”AI(人工知能)だ。ネット上には作曲サービスも次々登場。敵か味方か。ジャズミュージシャン 菊地成孔さんに話を聞いた。

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 テクノロジーは音楽を変えますよ。というか、音楽は人類が最初に作った瞬間から技術の進歩とともに変容しています。いいとか悪いとかではなく、単なる必然です。

 手仕事は常に偉大ですが、機械がより正確に大量に作ってしまうものがあり、一度便利に進化したものは、めったなことでは退化しないのが普通です。音楽だけじゃない。普遍的なことですよね。テクノロジーによって、機械でも出来ることを職能としていた人は失業しますし、テクノロジーが手仕事を完全に凌駕してしまう、なんてことはただの一度も起こっていません。「コンピューターによって、人々は完全に無能になってしまい、ついでに社会がコンピューターに支配されてしまうのではないか?」なんていう被害妄想は、H・G・ウェルズ時代の牧歌であって、いまだにそんなこと言って怯えている人は単純にバカだと誰もが思うでしょう。

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