しかし、「ペンス大統領」で、米国は今の混乱と憎悪から脱出することができるのか。先行きは、明るくなさそうだ。

 政治的信条はなく、むしろ大統領になるために支持者にアピールする政策を公約したトランプ氏に対し、ペンス氏は、前インディアナ州知事で、下院議員を6期も務めた政治家。共和党内も含むワシントンが、「ペンス大統領」を恐れているのは、彼が強い政治的信条を持つ保守強硬派だからだ。

 例えば、国民皆保険に相当するオバマケアを糾弾するティーパーティーにも参加し、州知事時代、企業が同性愛者やトランスジェンダーに対するサービスを拒否することを認めた「宗教の自由の回復法」をインディアナ州で発効させた。ペンス氏自身が、同性愛者らを認めず、宗教右派からの信頼が厚く、進化論も否定。また、「気候変動は、神話に過ぎない」「コンドームの着用は、エイズを防げない」といった信条も公表し、彼の支持層に歓迎されている。

 トランプ氏よりも政治的手腕がはるかにあり、しかも過激な政治的信条を持っているだけに、「ペンス大統領」への懸念は、保守派の中でも根強い。

 さらに、シャーロッツビルの事件で、国内テロが起きるかもしれないという不安は増幅。事件を起こした白人至上主義者だけでなく、反差別主義者の行動も過激化しそうだ。万が一、トランプ大統領が罷免されるか辞任となり、「ペンス大統領」の誕生となった場合、この過激な憎しみと分断はどこへ行くのか。さらに拡大しそうな気がする。(ジャーナリスト・津山恵子)

AERA 2017年8月28日号