もちろん、役者の力も大きい。中町教授は、長尺の大河ドラマという性質と、高橋一生さんの演技力とが良い化学反応を示していたと指摘する。

「最近のドラマは、展開の速さが求められることもあり、劇中の事件を追う構成であることが多く、キャラクターの描写が少ない。一方、長尺の大河ドラマでは、その役がどういう存在なのかや人間関係を丁寧に見せてくれます。さらに、高橋さんは、他の人物との距離感を演じるのがうまい人。的を射た役どころだと思います」

 実は、放送前からすでに「政次ロス」にはまった人たちがいる。ほかならぬ「直虎」制作陣だ。政次が処刑される第33回の制作にあたっては、関係者が謎の体調不良に悩まされた、と岡本プロデューサーは明かす。

「音楽担当の菅野よう子さんは、いつもはパワー全開の方なのに、台本を読んだ後、10日ほど熱で寝込んでしまって。実は、私も作りながら調子が悪くなってしまった。脚本の森下さんも、書き終えた後は虚脱状態でした」

 それだけ、物語の精神的な支柱となってきた政次の存在。だからこそ、役者もスタッフも「政次をきちんと見送ろう」と、集中力が高まっていったという。

 政次を演じる高橋さんも、父・政直役の吹越満さんの最期の姿に近づけようと5キロ以上減量して撮影に挑んだという。

●復活の力強さ描く

 制作陣さえも陥った政次ロス。視聴者はこれから何に癒やしを求めればいいんでしょうか……?

「私は作りながら、柳楽優弥さん演じる龍雲丸に癒やされました。直虎と龍雲丸がとぼとぼと立ち上がり、少しずつ歩き出す。結局、2人の恋愛が成就することはないのですが、2人の出した結論に救われるんです」

 第38回からは、菅田将暉演じる、成長した虎松(直政)が登場。直虎とぶつかり合いながらも、未来を切り開いていく姿が描かれる。

 オープニング映像にも、あるメッセージが込められている。一度すべてが焼き尽くされるが、再び小さな新芽が吹く。お家の取り潰しや政次の死から立ち直る、直虎の力強さを重ねた。

「たくましさを描くことで、見てくださっている方への応援メッセージにもなれば。直虎と一緒に政次の死を悼んでもらい、彼の遺志を見守ってもらえればいいなと思います」

(編集部・市岡ひかり

AERA 2017年8月28日