「もう何を楽しみに大河を見ればいいのか……」

 女性はがっくりと肩を落とす。

 そもそも、史実だけ見れば、政次は家老でありながら井伊を乗っ取った「裏切り者」のはず。どのようにあの「ツンデレキャラ」は生まれたのか。

 NHKの岡本幸江プロデューサーは、資料が残っておらず本名すらはっきりしない、謎めいた人物・小野政次を、「“ドラマ屋”として掘ってみたくなる人物だった」と評する。

「政次について調べているうちに、私も脚本の森下佳子さんも、早い段階から『おやっ?』という違和感があって。裏切り者という割には、小野家は江戸時代以降も筆頭家老として井伊谷を支え続けた中心的な家臣で、地元・龍潭寺でも一番いいところにお墓がある。伝わっている史実と違い、何か秘密があったのでは、と思ったんです」

 そして秘密を共有する2人の間柄は、きっとただの城主と家老というだけではないはず。そこで、ほのかなラブストーリーの要素も加えた。

●五代様との共通点

 物語では、はじめは政次を「裏切り者」として警戒していた直虎が、途中で「井伊を守りたい」という政次の思いに気づき、共に手を組んで戦う。実は当初、この2人の和解はもっと後半になる予定だった。2人の関係を丁寧に描いていくうちに、「さすがにそろそろ政次の真意に気づくよね」と、当初の予定を少し前倒ししたという。

「徐々に2人は、魂のパートナーというか、『半身』のような存在になっていきました」

 自由奔放な女性の主人公と、それを戦略的に、陰ながら支える男性。この図式が、連続テレビ小説「あさが来た」でロス現象を引き起こした、五代友厚とあさの関係に通じるものがあると指摘するのは、テレビドラマに詳しい日本大学芸術学部の中町綾子教授だ。

「どちらも歴史上で大きな名を成したわけではない傍らの存在。主人公もいわば歴史の傍らの存在で、それを支えるというところにドラマの広がりがあり、視聴者も肩入れしやすいのでは」

●制作陣がロスに

 さらに、「おんな城主 直虎」がSNS上で愛され、ファンがコミュニティー化しているという点も、従来のロス現象と共通していると指摘する。連続テレビ小説「あまちゃん」後の「あまロス」現象でも、SNS上で番組の感想を言い合ったり、番組放送後の「あさイチ」でも話題にされたりしたことでコミュニケーションが進んだことがムーブメントの背景にある。

 今回の「直虎」でも、地上波よりも2時間早いBS放送が「早虎」、午後8時からの地上波での放送が「本虎」と呼ばれ、放送前後は「早虎組から本虎組へ」といった、ネタバレすれすれのコミュニケーションを楽しむ人でSNSはにぎわっている。

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