北海道宝島旅行社 鈴木宏一郎さん(51)/「大好きな北海道を世界一にしたい」と語る鈴木社長は「北海道は言葉が通じる外国のよう」と話す。美しい景観と住む人に魅了された(撮影/工藤了)
北海道宝島旅行社 鈴木宏一郎さん(51)/「大好きな北海道を世界一にしたい」と語る鈴木社長は「北海道は言葉が通じる外国のよう」と話す。美しい景観と住む人に魅了された(撮影/工藤了)

 広大な自然。おいしい食べ物。人懐っこくて温かい人たち。長く寒い冬の後にやってくる、輝くような短い夏。北海道に魅せられた移住者たちが、この土地の新たな1ページを開いている。

●地元に金落とす仕組み

 北海道宝島旅行社(札幌市)社長の鈴木宏一郎さん(51)は、九州生まれの関西育ち。バイクで日本一周に旅立ち、北海道での暮らしにはまった。襟裳岬で地元の漁師の昆布干しを手伝い、酒食を共にした。なんとも楽しかった。

 リクルートに就職したが、北海道への思いが断ち切れない。「北海道に異動させてくれないなら会社を辞める」と上司に懇願。札幌勤務が実現したが、次は鹿児島へ異動となった。やはり北海道で働きたいと退職。05年、39歳で北海道に移住した。小樽商科大学大学院でツーリズムを研究。指導教員が「北海道で外貨を稼ぐ仕事をしよう」と繰り返した。

 北海道は原材料の供給基地。モノづくりが苦手だ。それゆえ、加工された工業製品などは本州方面から北海道に次々と入ってくる。地域間の移出入を貿易収支のように捉えた「域際収支」は赤字が続いた。担当教員は「北海道にお金を落としてもらう算段を考えて」と叱咤激励した。

 鈴木さんは、旅行会社を立ち上げ、観光客集めに悪戦苦闘。打ち出したのが「地元の人と暮らすように旅行する」体験型ツアー。「旅行客が浜の母さんたちと、とれたての魚を一緒にさばく」といったアイデア。これには、著名なレストランを食べ歩いている金持ちの外国人観光客も大喜び。「北海道旅行で一番おいしかったのは浜の母さんと一緒に作って食べた魚の煮つけ」と口をそろえた。北海道人には温かさと人懐っこさがある。最後に浜の母さんと観光客は互いに抱き合って記念撮影する。

 北海道の地方の町はどこも人口減少が深刻だ。「北海道の田舎を元気にしないとだめだ。農林漁業の付加価値をどう高めるかが大切。観光はその補助エンジン役を担うべき」と語る。

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