管理組合の力量が問われるのは、ここからだ。反対者への対応が詰めの鍵を握っている。54人の反対者に改めて意思を問うと49人が賛成に回った。拒絶した5人のうち3人は「売り渡し請求」に応じ、住戸を組合に売却して出た。ともに80代の男性と、女性の2人は拒み、それぞれの家に留まった。

 管理組合は、弁護士の栗山を介して所有権移転の登記と、建物と土地の明け渡しの本訴を起こす。と、同時に明け渡しの「断行の仮処分」を申請した。

 裁判所は仮処分の決定をし、2週間以内の明け渡しを命じるが、2人は動かない。強制執行の日、理事たちは近隣のホテルに部屋を取り、そこに宿泊しながら一緒に仮住まいを探そうと両名に呼びかける。女性は応じたけれど、男性は自分の車に閉じこもった。数日後、男性は多摩市へ相談に赴く。市は栗山に対応を委ね、男性はホテルに移り、都営住宅へ引っ越した。男性は「他人の世話になりたくない。まだここに住める」と主張し続けた。土地には多様な記憶が沁み込んでいる。

 17年盛夏、ブリリア多摩の公園を子どもたちが駆け回る。建て替え後、子育て世代がどっと流入し、団地は若返った。加藤の後を継いだ理事長は30代である。時は流れ、建物は変容しても人びとの真情は不変だ。

 次号では、タワーマンションの維持管理の問題に焦点をあてる。

(ノンフィクション作家・山岡淳一郎)

AERA 2017年7月31日号