伝承者養成期間は3年。誰の被爆体験を伝えるのかを決め、何度も会って信頼関係をつくる。原稿を書き、被爆者や市の担当者と共に加筆、修正する。話し方の指導も受ける。

 船井さんには、海外での苦い体験がある。高校生のとき、ブラジル・サンパウロに住んでいたことがあり、8歳の男の子に「どこから来たのか」と聞かれた。「広島」と答えると、「広島って大きな爆弾が落とされたところだよね。話を聞かせて」と言われた。

「でも、いざ話そうとしたら知っていることが少なくて。本当に情けない思いをしたのです」

 そんなときに伝承者養成事業を知り、迷わず応募した。

 伝承者は当事者ではない。限界もある。それを踏まえたうえで、どう体験を伝えるかが大事だ、と伝承者歴3年の清野久美子さん(59)は言う。

「被爆者の方のバックグラウンドも勉強して、自分のフィルターを通して伝えるようにしています」

 資料館は現在、資料の保存や継承の仕方などについてアウシュビッツの博物館との連携も模索し始めている。

●被爆3世であることは自分のアイデンティティー

 もう一つの被爆地・長崎では、被爆者の家族を対象に「家族証言者」を育成し、家族以外の人たちにも証言者になってもらう「交流証言者」の募集も行っている。

「10フィート運動」など映画を通して核問題を訴えてきた広島のプランナー、友川千寿美さん(64)は、

「世界には『広島・長崎』を受け止める人たちはたくさんいる。若い世代の知恵を借りて伝え続けることです」

 と強調する。

「広島・長崎」の継承で最近目立つのは、被爆3世の活躍だ。

 11年に設立されたNPO「ノーモア・ヒバクシャ記憶遺産を継承する会」(東京)。被爆資料を収集し、デジタルアーカイブ化して、国内外に発信する「継承センター」の創設を目指している。今年2月からは「未来につなぐ被爆の記憶」プロジェクトがスタートした。被爆者の手記などをスキャニングしてデータベース化し、それを使った継承活動のプログラムの検討もしていくという。

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