「自分たちは歴史を継承しているんだと、自覚しています」

「被爆後」のVRは、8月11日に福山市人権平和資料館で公開される予定だが、「被爆前」の爆心地と、いまは平和記念公園となっている旧中島本町のVRも制作中だ。「被爆前」「被爆後」をつなげて、来年夏に公開する計画だ。

「一瞬にして町が破壊されるその時を追体験してもらい、原爆の恐ろしさを少しでも感じてもらえれば」

 と長谷川教諭は語る。

 被爆・敗戦から今年で72年。被爆者や体験者が減り続ける中、その体験をいかに次世代に継承していくかは大きな課題だ。国も、昭和館やしょうけい館といった施設で語り部の育成事業に乗り出している。

 今年6月に発表されたある数字が、事態の深刻さを如実に示している。広島平和記念資料館(原爆資料館)の調査で、広島市内で被爆者証言活動に取り組む語り手が、想定されていたより50人も少ない150人に減少していることが判明したのである。

●広島って大きな爆弾が落とされたところだよね

「被爆の実相について被爆者から聞けなくなる日が、現実に近づいている危機感を肌で感じています」

 広島市国際平和推進部の中川治昭被爆体験継承担当課長は言う。被爆者の平均年齢は80・9歳。市は将来を見据えて2012年度から「被爆体験伝承者養成事業」に取り組んできた。被爆者の代わりに話をする「伝承者」を育てる取り組みだ。現在、伝承者は89人。英語の講話ができる人も8人いる。

 7月10日、原爆資料館1階で開かれた講話会に参加した。

 この日の伝承者は船井真奈美さん(53)。船井さんに話を伝えた被爆者の山本定男さん(86)も来ている。少し緊張気味の船井さんがパワーポイントを使って被爆の実相について話し始める。ゆっくりとした口調で約50分。終了後、山本さんに感想を聞いた。

「被爆の全体を詳しく話しているので、初めて聞かれる方も原爆の被害がよくわかる。そのうえで私の体験を話している。組み立てが非常によかった」

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