ぐっちーさん/1960年東京生まれ。モルガン・スタンレーなどを経て、投資会社でM&Aなどを手がける。本連載を加筆・再構成した『ぐっちーさんの政府も日銀も知らない経済復活の条件』が発売中
ぐっちーさん/1960年東京生まれ。モルガン・スタンレーなどを経て、投資会社でM&Aなどを手がける。本連載を加筆・再構成した『ぐっちーさんの政府も日銀も知らない経済復活の条件』が発売中

 経済専門家のぐっちーさんが「AERA」で連載する「ここだけの話」をお届けします。モルガン・スタンレーなどを経て、現在は投資会社でM&Aなどを手がけるぐっちーさんが、日々の経済ニュースを鋭く分析します。

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 アメリカ経済は絶好調です。マクロ経済指標は一点の曇りもありませんし、IT系企業の決算も絶好調。新しい企業が次から次へと生まれてくるアメリカのダイナミズムは、すぐ前例がないといって何も受け入れない日本にはどうみてもまねができません。若年労働人口が増えているアメリカ経済は確実に成長します。

 しかしながら、アメリカ経済は一つだけ大きなリスクに直面しつつあります。ずばり「トランプリスク」。ここにきて大統領選勝利の功労者であるプリーバス首席補佐官をクビにし、さらに新たに指名した友人であるスカラムッチ広報部長もわずか10日でクビにしました。これまでの閣僚メンバーは経済界で実績のある人たちと軍人が中心で、政治的には全くのシロート集団。議会との調整が全くできていません。上下院ともに共和党が占めているので、今頃は様々な法案、例えばオバマケアの廃止や減税などがとっくに決まっているはずなのに、事実上何もできていないというテイタラクは目を覆うばかりであります。私が知っている(1987年に一度仕事をした)ドナルド・トランプは極めて優秀な男で、ビジネスマンとしては素晴らしい資質を感じさせましたが、結局、何でもかんでも一人で決められるビジネスの世界(ウォールストリート)と、根回しや調整が必要な政治の世界(ワシントンDC)は全く別世界ということでしょう。そのあたりを学習する時間はすでに十分与えられていたはずで、その意味では今まで何をやっていたのかと言いたい。

 相変わらずメディアとは向き合わず、ツイッターで一方的に吼えたり噛みついたりするだけで、大統領として一体何をしたいのか。市場は今のところこのトランプリスクに目をつぶることを決め込んでいます。良いことも悪いことも何も決められないから、絶好調のマクロ経済と企業決算を背景に、忘れたふりをしていると言えるでしょう。しかし、こういう状態が長く続くとは思えません。イエレン議長が盤石の運営をしていることもありますが、先のFOMC(連邦公開市場委員会)で年末と思われていたバランスシートの正常化を9月にも始めるとしています。これがマーケットの潮目を変え、トランプリスクがさらに悪化させるなどということは想像したくはないのですが……。

AERA 2017年8月14-21日号

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