マンション問題に詳しい弁護士の松田弘は「管理組合はコンサルとの契約書に『リベートを取らない』と約定すべき。リベートを取ったら、その2倍の違約金を払うなどの特約条項を入れればいい」と対応策を口にする。

 悪質コンサルは技術系ばかりではない。以前、マンション管理士と弁護士が結託して管理組合を大混乱に陥れたケースを私は取材した。関西で名の通った管理士が、あるマンションの理事会に乗り込み、「管理人が違法な業務をしている」と唱え、暗に自分をコンサルで雇えと申し入れた。理事会が具体的に違法性を管理士に問うと、行政機関や弁護士の名前を挙げ、そこに訊けという。理事長が確かめたところ、違法性はなかった。理事長が強引な介入を問題視すると、管理士は理事長の会社の社長宛てに恫喝めいた手紙を送りつける。マンションは騒然となり、住民は理事長派と反理事長派に割れた。管理士は弁護士と反理事長派に付き、住民間の裁判闘争が始まる。最終的に理事長派の実質勝訴で終わるのだが、じつに殺伐たる光景が展開された。 

 まさか、うちのマンションではそんなことはない、と思うかもしれない。だが、いま列挙した悲劇は、ごくふつうのマンションで起きている。「維持管理なんて管理会社に任せておけばいい」と等閑視するスキを突いて第三者は侵入する。自分の財産は自分で守らねばならない。マンションの将来は管理組合の自立力にかかっている。まして一棟に数百戸も入るタワーマンションとなればなおさらだ。その自立力はコミュニティーによって育まれる。

 横浜ヘリオスの管理組合理事長、山根は、商業施設との分断を抱えながら、307戸をまとめて大規模修繕を成し遂げた。根底にあるのは、「人と人のコミュニケーション」だと言う。

「入居してすぐ、横浜市に掛け合って回覧板をまとめてもらってきてね、5階から30階まで、各フロアに配って歩いた。連絡事項が出るたびに26フロアを上へ、下へと走り回った。そうやって顔が見える関係ができたんです」

 2020年の東京五輪に向けて超高層マンションの建設ラッシュが続いている。キラキラ輝く建物には、次にどんな時代の相が映るのだろうか……。(文中敬称略)

(ノンフィクション作家・山岡淳一郎)

AERA 2017年8月7日号