だとすれば、ロボットや人工知能(AI)が神様を作り出し、新たな「宗教」が生まれる、という事態も起こり得るのかもしれない。

「AIはむしろ、それ自身が神様になりやすいんじゃないでしょうか。最近のAIブームでも、AIに対して過剰に期待をしたり、勝手に畏敬の念を抱いたりする人がいますよね。今後、人が勝手にAIを神格化して信仰していくんじゃないかと見ています」(高橋さん)

●科学と宗教の境界線

 高橋さんの研究室が、夏目漱石や桂米朝など人間そっくりの姿で人と対話もできるアンドロイドを開発していることはよく知られている。これらのアンドロイドを使った実験をしているうちに、人間らしさや属人性がないロボットやAIは、逆に崇拝の対象になりやすいのではないか、と懸念するようになったと高橋さんは言う。

 テクノロジーが進化、複雑化してわかりにくくなっていくと、これまでも不可解な現象を説明する役割を果たしてきた宗教に、説明を求める事態は想像しうる。アニミズムが自然を崇拝するように、普通の人には説明できないもの、「畏敬」の対象としてAIが崇拝されるようになるというわけだ。

 科学と宗教の境界があいまいになりつつある昨今、私たちは、それぞれが扱うべき領域を再定義する必要に迫られている。

 神様としてAIを頂く世界は人間にとって幸せなのか。

 AIが権力を持ち、人々を支配する様子は、SFでは繰り返し描かれてきた。手塚治虫の漫画『火の鳥 未来編』は「電子頭脳」の計算が支配する世界、士郎正宗の『アップルシード』では、ガイアと呼ばれる人工知能が人工島オリュンポスを統治する世界を描く。

 科学技術と社会のあり方について詳しい東京大学特任講師の江間有沙さん(32)はこう話す。

「AIは人間が作るものですが、AIを神格化する行為はそれを人間の手から離したがっているようにみえます。しかし、現実にはAIの目的は人間が設定します。目的設定のために人間は、AIをどう使いたいか、これからの社会をどうしたいかを考える必要があります」

(編集部・長倉克枝)

AERA 2017年8月7日号