内田樹「首相苦肉の答弁修正で際立つ接待漬けのなぞ」(※写真はイメージ)
内田樹「首相苦肉の答弁修正で際立つ接待漬けのなぞ」(※写真はイメージ)

 思想家・武道家の内田樹さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、哲学的視点からアプローチします。

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 加計学園問題をめぐる国会の閉会中審査において、安倍晋三首相が今年の1月20日まで「腹心の友」が理事長を務める加計学園が獣医学部新設の申請をしていたことを知らなかったと答弁して問題になっている。

 それ以前の答弁では「加計学園が(愛媛県)今治市に獣医学部を作りたいということをいつから知っていたか」という質問に対して、国家戦略特区への申請段階で承知したと答弁していた。

 それが今になって「今年1月20日まで知らなかった」と答弁を変更したのは、知っていたのであれば、事業主体である「腹心の友」とこの間頻繁にゴルフや会食を重ねてきたことが、大臣規範に違反することになることに気づいたからである。

 大臣規範は政治倫理の保全を期するために、関連業者との接触に当たって、供応接待を受けることを禁じている。

 この規定違反を咎(とが)められることを恐れて、首相は過去の答弁を「知り得る立場にあった(が知らなかった)」「今治市が申請していたことは知っていたが(加計学園とは知らなかった)」と修正し、「腹心の友」が自分が許認可権をもつ事業の関係者であることを知らなかったと強弁したのである。

 だが、苦肉の策であるこの答弁修正はむしろ首相の驚くべき人間関係を明らかにする。それは、「腹心の友」が親友(安倍首相)が許認可権を持つ事業の認可申請を出していながら、その事実を親友に伝えず、ゴルフや会食で首相を接待漬けにしていたということである。

 これは事実上、「親友に汚職の嫌疑を与え、野党とメディアに追及の手がかりを与え、支持率を急落させ、失墜させるための周到な罠(わな)」を仕掛けていたに等しい。

 自分の政治的キャリアを終わらせかねないリスクを伴う行為を仕掛けていた人物を友としてこれからも信じ続けるのは首相の自由だ。

 しかしこの人物が例外的に邪悪な人物であるか、あるいは例外的に粗忽(そこつ)な人物であるか、あるいはその双方であることは間違いない。そのような人物が学校教育の事業主体にふさわしいという判断に与(くみ)する人はいないであろう。

AERA 2017年8月7日号

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内田樹

内田樹

内田樹(うちだ・たつる)/1950年、東京都生まれ。思想家・武道家。東京大学文学部仏文科卒業。専門はフランス現代思想。神戸女学院大学名誉教授、京都精華大学客員教授、合気道凱風館館長。近著に『街場の天皇論』、主な著書は『直感は割と正しい 内田樹の大市民講座』『アジア辺境論 これが日本の生きる道』など多数

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