檀家の少ない集落でも、外に活路を見いだした人もいる。福岡県築上町の實成(じつじょう)寺(日蓮宗)の中村雅輝(まさき)住職(66)は、「寺も食べていかなければならないが、僧職の誇りを失うこととは違う」と語る。
37年前、住職として単身で赴任。67軒の檀家が力を合わせ、守っている寺だった。ある檀家から、こう言われた。
「住職の代わりはいても、お寺の代わりはない」
それでも現実は厳しかった。
「葬儀は共同体では寺の役目だから、葬儀料はわずかで戒名料もない。納骨堂や墓地もなかったので、墓地収入もない。お墓がないので、盆や彼岸に信徒がお寺に来ない」(中村さん)
●マーケティングも必要
食べるための戦略をどう立てればいいか。幸いなことにコメや野菜、海の幸は檀家が届けてくれた。昔ながらの助け合いの精神もまだある。自身は布教師として立つことに決めた。
月回向(えこう)に欠かさず行き、行事を増やし、祈祷(きとう)会や施餓鬼(せがき)をした。仏教に触れるツアーや写経、落語会も企画した。布教師として、県内外の多くの寺へ説教に回った。現在、常任布教師を務める。檀家は82軒に増えた。決して豊かではないが、夫婦2人だから、「なんとかやってこられた面もある」という。
寺院経営のコンサルティングをしている寺院デザイン代表の薄井秀夫さんは、「地方の過疎化や檀徒(檀家)数の減少は、数十年前から起きていたこと」と指摘する。
寺の維持費や運営を考えると、布施収入だけではやっていけない寺は少なくない。
「たとえば、15年の曹洞宗の宗勢総合調査によると、収入の総額が年300万円以下のお寺は全体の41.9%、100万円以下は全体の24%です」(薄井さん)
そんななか、多くの寺院が起死回生の策として飛びついているのが、永代供養墓だ。近年、永代供養墓をめぐる相談が増えている。
「郊外に数億円をかけて永代供養墓を建てたが、申し込みが数年で数えるほど、という相談が来たこともあります。明らかに回収不能です」(同)