愛娘には、英才教育を施した。

「子どもは大きい数で競争するものでしょう。『おれ1億円』『私1兆円』とか。勝つための秘策は、小学校にあがると同時に、授けました」(同)

●欲望がシンプルになる

 数字なら9ではなく1を並べ、乗数なら一筆で書く7を連ねるほうが速く書ける。相手が無限を出してきたら、「どの無限? 私はマーロ基数」と言うこと。「小学生なら、これで大抵の勝負に勝てるはず」と言う。

 成川さんは活動的だ。友人も多い。ところが、この数字癖だけ、いまだに仲間が現れない。

「誰にも知られなくても、役に立たない計算をこれだけの精度でやる。誇りというか、単に好き。つまり、趣味です」(同)

「スタンド・バイ・ミー」や「イージー・ライダー」。旅と野宿の中に、憧れの青春があった。かとうちあきさん(36)は、高2にあがる春休み、胸を膨らませて野宿旅行に出た。横浜から熱海まで歩き、戸塚近辺の国道沿いで、寝袋ごと側溝にはまって眠った。高3の夏休みには青森県の竜飛岬から山口県の関門トンネル人道まで53日間かけて徒歩で縦断。大きな感慨があった。

「寝る場所さえ見つかったら、その日一日全部うれしい。欲望がシンプルになる感じが気持ちよかったんです」(かとうさん)

 以来、四国や北海道も一周し、コンスタントに野宿を続けてきた。大学4年で、考えた。どうすればこの生活を続けられるか。

●湧きあがる衝動と情熱

「旅行が生活になると、難しいのかな、と。生活の基点があって、野宿に出かけたほうが、私は楽しいと思ったんです」(同)

 そう、野宿は私の趣味なのだ。かとうさんは悟った。

 介護士として働く傍ら、2004年、ミニコミ誌「野宿野郎」を創刊。野宿者との接点が増え、野宿の幅も広がった。それまでは旅先の一人野宿が専門だった。

「人が集まると楽しいし、宴会も野外ならお金がかからず、そのまま寝られる。休みが少なくても、寝袋や段ボールがあれば、ひと晩すぐ楽しめるんです」(同)

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