初日に行われた1歳セリではディープインパクト産駒の8頭を含め、1億円以上(以下、全て税抜き)の取引馬15頭が誕生。高額落札馬がセリを牽引したことで、落札総額は86億3450万円を記録した。翌日の当歳セリでも、優れた競走馬を購入しようとするバイヤーの熱気はとどまることを知らず、1億円を超える取引馬は17頭を記録。その中には1億4500万円で取引された、シュガーハートの2017も含まれている。

 しかし、今年のセレクトセールはその衝撃だけにとどまらなかった。ディープインパクト産駒のイルーシヴウェーヴの2017(牡)が、日本の競走馬セール史上歴代2位となる、5億8千万円で落札。ちなみにディープインパクト自身もセレクトセールにおいて7千万円で取引されているが、イルーシヴウェーヴの2017は、その8倍強の評価となった。

 記録的な高額落札馬の誕生により、当歳セリの総売上額は86億9250万円を記録。当然のようにセリ2日間を通しての落札総額は、173億2700万円と従来のセールレコードを更新している。

●凱旋門賞制覇の夢へ

 社台ファームの代表でもあり、日本競走馬協会の会長代行も務める吉田照哉氏はこう語る。

「この結果には驚きしかありませんが、競走馬を購入するだけの資金のある、新規オーナーのニーズに応えるセリとして、セレクトセールが認識された証しだとも思います」

 また、質の高い上場馬を送り出すべく、個々の牧場が海外で優れた競走成績を残した繁殖牝馬を導入。今や世界のホースマンから注目される血統レベルに達していることも、この成功に繋がっていると分析していた。

 吉田氏はこの後に日高で行われるセリについても触れた。

「セレクトセールだけでなく、日高を含めた全ての競走馬市場が活況になる予感がしています。社台ファームとしても、生産馬にこれだけの評価をしていただけたことは、身の引き締まる思いがしますし、これまで以上に高いレベルでの管理を行っていきます」

 現在の生産界は胆振と日高に分割される「大と小」との戦いと述べた。だが、実際のところは社台ファームやノーザンファームのようなリーディングブリーダーが先導する形で、日本競馬や生産界を盛り上げているとの見方もできる。

 今後もレベルの高い争いの中から、ディープインパクトや、キタサンブラックに続くスターホースが誕生し、これまで以上に競馬を盛り上げるだけでなく、生産界にもその恩恵がセリの結果で好循環していけるようなら、日高、胆振問わず、世界に通用するような強い馬が誕生していくだろう。日本競馬界が悲願としている凱旋門賞制覇を、北海道生まれのサラブレッドが果たす日もそう遠くはなさそうだ。

(スポーツライター・村本浩平)

AERA 2017年7月31日号