一方で、「アクションシーンが得意」という米林の持ち味が前面に出た、「新しさ」を感じさせる作品でもある。「覚悟を示す意味で一番頭に持ってきた」という導入シーンでは、いきなり建物が炎上し、魔法を使った空中戦が目まぐるしく繰り広げられる。その激しさは、単なる「ジブリ後継者」ではない、米林独自の作品であることを強くアピールしている。

 米林は今回の作品をつくる際、師・宮崎に「覚悟をもってやれ」と声を掛けられた。米林は、これで気を引き締め直したという。

「ジブリで過ごした20年の経験は自然と出てくるが、自分の色も必ず出る。子どもに喜んでもらえる作品をつくるには、すごく覚悟がいるんだということを、ジブリで作品をつくりながら感じてきた。ジブリで当たり前にやってきたことを受け継ぎつつ、独自の色が混ざり合って進化していくものだと思う」

 ジブリから受け継いだものの一つに、世界的に「美しい」と評価される背景美術がある。「作品の品格は美術で決まる」として、背景美術を重要視するプロデューサーの西村が、ポノック第1作の美術監督に選んだのが久保友孝(31)だ。高畑勲(81)の「かぐや姫の物語」などにかかわってきた久保が、長編アニメの美術監督を務めるのは初めてだった。

●手描きの伝統が効果的

 久保の光の描き方は独特。メアリの物語が繰り広げられる2日弱という時間を、移り変わる背景の光の加減や色使いなどで見事に表現している。

「安定したベテランの美術監督ではなく、僕を誘っていただいて光栄です」

 と話す久保の哲学も独特だ。

 目指すのは、「キャラクターと背景が融合、調和した世界観の提供」だが、

「背景美術が情報過多になると、見ていてストレスを感じてしまう。キャラクターに目が行く時に、背景がこっちを見てよと誘導するのはよくない」

 隅から隅までびっしり描き込む写真のような写実性に走ると、キャラクターの動きとケンカになると久保は言う。重視するのは「力を抜くところと入れるところ」の微妙なバランスだ。もちろん、背景だけのカットは、実力の見せどころになる。

 そうした融合と調和を極めるためにも、ポノックがジブリから受け継いだ「手描き」の伝統は効果的だと強調する。筆の繊維や絵の具の粒子が、より細かい描写を可能にする。

「メアリ」には、どう見ても写真にしか見えない草原の風景が、画面いっぱいに映し出される場面がある。

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