毛の経歴で見逃せないのが、月刊誌「知日」の創刊だ。

 サブカルから文学まで、日本文化を紹介する「知日」は2011年1月に北京で創刊。毛は主筆に就いた。その後、尖閣諸島の領有権問題が過熱するなど日中関係は悪化したが、それでも、広告を掲載せずに読者の購読料のみで成り立つビジネスとして、「知日」を軌道に乗せることに成功した。毛は言う。

「中国には日本の文化を知りたいという潜在的な読者のムーブメントがあると理解しました」

 支えているのは、「鉄板層」と呼ばれる中国都市部の若者の旺盛な消費だ。

「理解できるかどうかよりも、お金を払って消費することで、心の中の豊かさみたいなものを求めていく感じ」(毛)

 その後、毛は「知日」を退き、昨年3月に編集長として隔月誌「在日本」を創刊。「在日本」は「知日=日本を知る」を一歩進めて、「われわれは日本の中にいる」という意味だ。

「中国は、日本の最先端の価値観やライフスタイルを単に情報として『知る』段階を超え、リアルタイムで共感、共有していく段階にあるのです」(毛)

「在日本」最新号は又吉のロングインタビューを掲載。『火花』とセットで販売している。

●価値観も共有できる

 毛は又吉の上海訪問中、書店でのトークライブや学生との交流にも同席。日常の悩みを又吉にぶつける中国の若者の姿を目の当たりにして、確信を深めた。

「生活に密着する要素に目を向ければ、日中の市民感覚は決して乖離(かいり)していません。日常を豊かに彩る商品を介在することで価値観も共有できる」

 毛には、「政治」に翻弄(ほんろう)されがちな日中の壁を、芸術や文化への共感力で突き崩そうとする野心もうかがえる。今年は日中国交正常化から45周年。文化が政治をのみ込む日は来るのだろうか。(編集部・渡辺豪)

AERA 2017年7月31日

著者プロフィールを見る
渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

渡辺豪の記事一覧はこちら