一方で物価はうなぎ登りだ。3年前は商店でフランスパンが50ボリバルで買えたが、昨年は500ボリバルと10倍になり、今年はさらに10倍の5千ボリバルになったという。ガブリエルさんは怒る。

「物価の上昇は年ごとではなく、月ごとだ。知恵を絞って副収入を得るようにしているが、どれだけ頑張っても安定した生活なんて送れるはずがない」

●デフォルト懸念の声も

 ベネズエラ政府は、2015年以降の経済指標を公表していないため、正確なインフレ率は不明だ。それ以前に公表された公式統計の信頼性も不透明であるため、国際通貨基金(IMF)などの国際機関や各国経済学者らは、闇レートを基準に独自の推計値を出すが、実態の把握は難しい。その推計値も過去5年間のインフレ率を数百%とするものから、20年には4千%になるとするものまで様々だ。

 ただ、一般的に月間インフレ率が50%を超える状態とされるハイパーインフレに、ベネズエラがすでに陥っているとみる傾向は強く、財政破綻によるデフォルト(債務不履行)を懸念する声も出ている。

 数値がどうであれ、国民の生活が一向によくならないのは事実だ。物価高騰に加え、市場に出回る食品や生活必需品が圧倒的に不足している。そのため、物品の購入日は国民ごとに決められているという。

●夜の外出は殺人が怖い

 ガブリエルさんの購入日は毎週火・土曜日、妻は水・日曜日だが、

「店には夜明け前から長蛇の列ができていて、何時間も待たされる。平日に並ぶには仕事を休まないといけない。並んでも、何が手に入るかは分からない」

 店は指定日以外には売ってくれないし、指定日であっても、牛乳や砂糖、トウモロコシ粉などは容易に手に入らない。

 治安が極めて悪いため、長時間並んで待つことは、銃撃やもめごとに巻き込まれる危険と隣り合わせだという。そのため、物品を転売する闇商人から購入する人たちも少なくない。もちろん価格はさらにつり上がる。店では800ボリバルで買えるトウモロコシ粉を闇商人は4千ボリバルで転売する。そこで物がなくなれば、別の闇商人を紹介されるが、そこでは8500ボリバルを支払うという。

「店で買うよりも何倍も支払うことになるが、列に並ぶより安全だし、購入日に関係なく、いつでも買えるため、仕方がない」

 とガブリエルさんは話す。

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