21世紀の労働は、なぜ、その価値が上がらないのか?(※写真はイメージ)
21世紀の労働は、なぜ、その価値が上がらないのか?(※写真はイメージ)

 経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、経済学的視点で切り込みます。

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『21世紀の資本』。皆さんはこの書名をご記憶だろう。フランスの経済学者、トマ・ピケティの著作だ。2014年から15年にかけて、世界中で大ベストセラーとなった。日本でも、14年末に訳本が出るや、たちまちベストセラーにランクインした。

 筆者は、この本の姉妹編のタイトルを思いついてしまった。「21世紀の労働」である。

『21世紀の資本』は、膨大な歴史的データを踏まえつつ、21世紀における資本の運動原理を解明しようとしている。21世紀の資本は、国境を越える。その越境的凶暴性をどう封じ込めるか。そこがピケティ本の焦点だ。

 これに対して、「21世紀の労働」は越境するカネに翻弄されるヒトの姿に注目したい。なぜなら、今日、労働を巡る状況がそれこそグローバルな広がりをもっておかしくなっているからだ。

 多くの先進諸国で、失業率が低下している。日本では、盛んに人手不足問題が取り沙汰されるような状況だ。ところがそうした中で、賃金は上がらない。賃金上昇なき雇用拡大。この怪奇現象が、あちこちで論者たちを悩ませている。日本でも、アメリカでも、イギリスでも。

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浜矩子

浜矩子

浜矩子(はま・のりこ)/1952年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。前職は三菱総合研究所主席研究員。1990年から98年まで同社初代英国駐在員事務所長としてロンドン勤務。現在は同志社大学大学院教授で、経済動向に関するコメンテイターとして内外メディアに執筆や出演

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