その「極左」が消えた。「共産党より左」の政治勢力が事実上消滅したのである。もう何をしても「堕落」とか「裏切り」とか言われることがなくなった。この解放感と、それによってもたらされた政策選択上のフリーハンドは意外に大きなものだったと私は推察している。私のような武道と能楽を嗜み、神道の禊行を修するような公然たる天皇主義者に候補者の推薦を依頼してくるというようなことは、かつての共産党ではありえなかったことである。

 共産党がこの先党勢拡大を願うならヨーロッパの社会民主主義政党に近いものになるしかないだろう。経済成長が終わり、資源のフェアな分配と、社会的弱者を「とりこぼさない」政策を進めようとするなら、社会民主主義の古ぼけた旗の埃をはたき落として掲げ直し、「みんな同じくらい貧乏になる」社会をめざす以外に現実的な選択肢はないからである。ネトウヨたちの「左」に対するあの異常な憎悪は「もうすぐ到来するぱっとしない時代」の予感がもたらしているのである。

AERA 2017年7月24日号

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内田樹

内田樹

内田樹(うちだ・たつる)/1950年、東京都生まれ。思想家・武道家。東京大学文学部仏文科卒業。専門はフランス現代思想。神戸女学院大学名誉教授、京都精華大学客員教授、合気道凱風館館長。近著に『街場の天皇論』、主な著書は『直感は割と正しい 内田樹の大市民講座』『アジア辺境論 これが日本の生きる道』など多数

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