「健常者こそ投稿して」

 開発に携わった島根大学総合理工学研究科の伊藤史人助教は、従来のバリアフリーマップとの違いをこう説明する。

「経験をシェアできるマップはなかった。誰かの『行けた』は、ほかの誰かの勇気になる」

 車いす利用者に“道筋”をつけた織田さんだが、これまで自身の道のりには山も谷もあった。22歳の時、筋肉の萎縮が徐々に進む「遠位型ミオパチー」と診断。05年には主治医から「病気が進行すると、出産も育児も非常に大変になる」と言われ、交際していた洋一さんに別れを切り出すと、逆に「じゃあ、結婚するなら今だね」とプロポーズを受けた。すぐに結婚し、翌年長男を出産。産後、車いす生活が始まった。今では箸やコップも持てなくなり、洋一さんのサポートを受けている。

 洋一さんは仕事でも重要なパートナーとなり、14年1月にはユーチューブの動画チャンネル「車椅子ウォーカー」を開設。国内外を車いすで飛び回り、交通機関や街、飲食店、観光スポットなどのバリアフリー情報を動画で発信してきた。今回のアプリ完成に、織田さんは言う。

「私の病気は、進行とともに筋肉が衰えます。それでも社会とつながっていたいという思いがある。私自身もそうですが、手が動かしにくくて写真を撮ったり、投稿したりしづらい人もいる。ぜひ健常者の人にもどんどん投稿してもらい、このアプリで心のバリアフリーも推進していきたい」

(編集部・深澤友紀)

AERA 2017年7月24日号