●「特別警報」2時間遅れ

 現状で予測が困難とあらば、逃げるしかないのだが、今回の豪雨で「警報」が有効に機能したのか。福岡管区気象台によると、浸水害・土砂災害の「特別警報」が福岡県下に出たのは5日17時51分。朝倉市の大雨のピークは1時間降水量が129.5ミリとなった15時半過ぎで、それから2時間遅れだ。

 気象庁が防災情報として提供する警報は「重大な災害が起こるおそれがあるとき」に出される。一方、今回出した特別警報は「数十年に一度という極めてまれで異常な気象現象により重大な災害が起こるおそれが著しく大きいとき」に出すもの。特別警報の発表後はただちに地元市町村の避難情報に従うことを求めているのだが、時間的余裕がないタイミングで特別警報が出ると困難な事態を招くのも必至だ。

「注意報や警報が出るのが遅い」という苦情はこれまでにも多くあり、国土交通省交通政策審議会気象分科会は15年に線状降水帯のようなメカニズムの豪雨が多発する状況に備えて「『新たなステージ』に対応した防災気象情報と観測・予測技術のあり方」を提言。空振りも含めて「警報級になる可能性を提供する」などと指摘した。

 また、各気象台のホームページでは、地方ごとの注意報、警報、特別警報を色分けし、気象レーダーによるリアルタイムの降水の様子も確認できるようにしている。だが、これらの情報を的確に読むノウハウ、スキルが十分ではなく、判断力や行動力が不足しがちな高齢者では懸念が大きいままだ。

 集中豪雨など突発的な気象現象に立ち向かうには、観測や予報という「ハードウェア」だけでは十分ではない。地域の特質に合わせながらその情報をどう生かすか。そんな「ソフトウェア」の重要性を認識する必要がある。

(科学ジャーナリスト・内村直之)

AERA 2017年7月24日号