専用アプリから2500円以上の注文をすることで利用でき、1時間配送だと別途890円かかる。2時間便なら無料。専用の配送拠点が国内に6カ所あり、その近くなら20分で届くこともある。そこまで速さを追求する意味はあるのだろうか。


「1時間配送はご利用方法の一つにすぎません。速さより『確実に受け取れること』を重視しています。あと1時間は確実に在宅されるという方は1時間配送をお使いになり、明朝の朝食の材料を注文したい方は、翌朝の時間指定を利用される。『急ぐ』だけのサービスではありません」(永妻さん)

 実際、買われる商品は緊急性の高いものばかりではない。ゲーム機や新刊書籍などは深夜0時の発売解禁と同時に配送するキャンペーンを使うことで、深夜の店頭に並ばなくても「できるだけ早く手に入れる欲求」が満たされる。「ボージョレ・ヌーボー」なども含め「発売日にいち早く買う」ことに意味を見いだす日本人には、フィットしている。
何かあれば立ち返る

 では、米本社と日本のどちらが、日本でのビジネスの方針を決めているのか。ライフ&レジャー事業本部の統括事業本部長を務める渡辺朱美さんは日常的に、アマゾンジャパンのジャスパー・チャン社長らとともに重要な意思決定にかかわる。

「事案の大小で異なりますが、ほとんど日本で決めています」 と渡辺さん。莫大な投資を必要とする重要案件を除けば、本社とのやりとりは情報共有レベルだという。

 パソコンメーカーの社長だった渡辺さん。前々から「もっと動きの速い、消費者に近い仕事がしたい」と考えていた。そんなとき、ヘッドハンターにアマゾンを紹介された。入社を決めたのは、社員が守るべき信条を定めた「リーダーシップ・プリンシプル」=21ページに共感したからだ。

 すべての社員がリーダーとして行動することを求められ、そのために心がける信条として14項目が定められている。渡辺さんは特に「Customer Obsession(顧客を起点に行動する)」「Ownership(オーナーシップ)」「Invent and Simplify(革新と創造を求め、シンプルな方法を模索する)」に強く共感したという。

「まさに『これだ!』という感じ。私が部下に伝えてきたことと、まったく同じ考え方だった。働く上では、企業と価値観が合うことが大事だと思います」

「顧客第一」がビジョン、「品ぞろえ」「価格」「利便性」がビジョンを構成する要素だとすれば、このプリンシプルは行動規範。アマゾンで働く人たちは、何かあれば必ずここに立ち返るということを徹底している。

●アマゾン独特の習慣

 おもちゃや車用品、スポーツ用品、DIY、キッチン用品までを含む「ライフ&レジャー」の分野でも同じ。

「これまでeコマースになじまなかった分野の販売を拡大するために、オフラインのサービスを強化していきたい」

 と渡辺さん。例えば、車の部品、蛇口や便器などは、商品を購入した後、専門業者による取り付けが必要だが、こうした業者による施工そのものもアマゾンで購入できるようにすることで、今まで対象外だったジャンルも「品ぞろえ」できる。実際、テニスのガット張りなどが商品になった例もある。

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