日本海にまた北のミサイルが着弾した。覇権国家アメリカでは“CNN”にラリアットする男が大統領だ。いつの世もリスクはつきものだが、いよいよニッポンもきな臭くなってきた。そんな時代に我が家の家計を、資産をどう守るか。苦難を乗り越え今に至る、隣の中国の「不動産投資」やインドの「金投資」から知恵をいざ、学ばん。AERA 2017年7月17日号では「中国とインドのお金を守る方法」を大特集。ぐっちーさんに、資産防衛について聞きました。

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 一応、投資銀行業に30年近く携わってきたので、「私の資産はどう運用したらいいでしょうか?」というご質問をよく受けます。

 投資理論としてほぼ唯一、有効性が科学的に証明されている方法は「分散投資」であります。証券会社などはこれを悪用して、「貯金ばっかりしてないで、株もやんなきゃだめですよ」などと言って勧誘するわけです。しかし、それに乗ってはいけません。金融機関はみなさまが儲かる商品を売ることは絶対になく、自分たちが儲かるものしか売りません。これは永遠の事実ですから忘れないでください。

●最大の資産は人的資本

 個人にとっての資産は、企業と違って、特に若い方の場合は、大半は“本人”という「人的資本」です。みなさまと話していると、この大事な点がすっぽり抜け落ちている。わずか100万円のお金を「株がいいですか? ドル預金がいいですか?」などと言い出す始末。プロから見ると、これはナンセンスで間違っています。

 あなたが30代であれば、これからばりばり稼ぎ、結婚をして、子どもという新たな「人的資本」を家族として養い、彼らを学校にやり、医療費を払い、年金も払って将来に備える。その中で貯金などは資産の恐らく5%もないでしょう。生涯賃金が約3億円だとしても、1500万円くらいの貯金があるとは考え難い。つまり、あなたの持っている最大の資産は、あなた自身という「人的資本」だということを忘れてはいけません。

 
 過去、科学的に有効性が実証された投資理論は、人的資本を含めたうえでの「分散投資」なのです。ワタクシから見て大多数の日本人はなけなしのたかだか100万円くらいの預金をどう分散するかばかり考えていて、肝心の自分という最大の資産をどう分散投資するかという視点がすっぽり抜け落ちているのは、いかにも悪手に見えてしまいます。

 どういうことか? みなさまを人的資本として、改めてその構成要素を見てみましょう。これを読んでいるみなさまは、ほとんどが日本人で、日本の学校を卒業し、日本語をしゃべり、日本の会社で働き、日本で納税をし、日本に家を買い、日本の医療保険に加入し、配偶者も大多数は日本人、お子さまも日本で生まれて日本国籍で、日本の小学校から大学までをご卒業になることでしょう(一部の例外を除いて)。そして老後の年金も日本からもらうわけですね。

 つまり、人的資本の構成要素という観点から見ると、ほぼ100%が日本という籠(市場)に集中投資されているという実に恐ろしいことが起きていることが分かります。

 例えば日本の大学は世界では通用しません。慶應義塾大学といってもアメリカに行けば「?」でしかありません。日本語はもちろん日本以外では通用しませんね。脅かすわけではありませんが、福島の原発の事故で風向きなどが悪ければ、被曝していた地域はより広かった可能性もあったわけで、さて、そういう場合、みなさまという人的資本はいかほどになりますでしょうか?

●海外に目を向けよ

 こういう観点(純粋に金融資産運用論)から見ていくと、みなさまをまず分散することを考えるのが先ではありませんか? というのがここで言いたい最大のポイントです。

 例えば、私の友人の中国人は大金持ちですが、長男はアメリカ、長女は日本、次男はイギリスにそれぞれ留学させ、そこの大学を卒業し、それぞれの国に住まわせています。つまり彼らの家族はすでに4カ国に「人的資本」が分散しています。アメリカ人はアメリカに資産が集中しているように見えますが、英語は世界中で通じるわけですからその時点で資産が分散されているようなものですね。

 特に若い世代のみなさまは、いざ日本を離れても生活できるだけの人的資本の分散こそが最大の資産防衛になるということがこれでお分かりいただけるのではないでしょうか。青年よ、海外に目を向けよ、というのは資産運用の観点からも大正解なのです!

AERA 2017年7月17日号

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ぐっちー

ぐっちー

ぐっちーさん/1960年東京生まれ。モルガン・スタンレーなどを経て、投資会社でM&Aなどを手がける。本連載を加筆・再構成した『ぐっちーさんの政府も日銀も知らない経済復活の条件』が発売中

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