酒井順子(さかい・じゅんこ)1966年東京都生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表。立教大学社会学部観光学科卒業後、広告会社勤務を経て執筆専業となる。2004年『負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞をダブル受賞(撮影/慎芝賢)
酒井順子(さかい・じゅんこ)1966年東京都生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表。立教大学社会学部観光学科卒業後、広告会社勤務を経て執筆専業となる。2004年『負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞をダブル受賞(撮影/慎芝賢)

 その飄々とした語り口で鋭く社会を切っていく酒井順子の新刊のタイトルは『男尊女子』である。社会現象ともなった2003年の著書『負け犬の遠吠え』に勝るとも劣らないこの秀逸なタイトルは、「男尊女卑は男性側だけの問題ではない」ということを端的に表している。

「責められがちなのは男性だけど、でも実は自分が悪かった部分も多々あると思って。人生を思い返してみると、男を立てるとまではいかなくても、自分を下に置いたほうが楽だとか、そういう損得勘定で巧妙に責任を取ることから逃げていたところがあるんじゃないかと。そこに神様がふとこの言葉を(笑)」

 今回も彼女の視線は冴え渡っている。運動部の女子マネジャー、自ら進んでオフィスでお茶をいれる女性、夫を主人と呼びたがる妻などなど、列挙される男尊女子の数々。そして言うのだ。「下でいるということには無責任という快楽がついてくる」と。

「ジャッジするということはとても大変なことですし、それを他人に任せれば、本当に楽ですよ。間違えたとしても自分の責任じゃないし。『楽』というもののパワーの強さは、『正しい』なんかの比じゃないです。ずっと責任を取らずに来た日本女性に、急にハンドルを切れといっても難しいのでしょうね」

 内実はさておき、平等が浸透し、普通に生きる権利が揺るがない社会では、自ら進んで男尊女子となる人がいても不思議ではない。そのほうがモテるのだから。しかし、今や男性側も上でいることのキツさを担いたい人ばかりではないだろう。

「それぞれのカップルで平等のラインを引かなきゃいけないんでしょうね。お互いが満足できて、かつどっちかに負担が偏らない線を。そのためには日本の女性はもう少し自分の気持ちを言ったほうがいいのでは。『察してくれ』というのは、もう無理。言葉にしないと家族をつくることも、うまく運営することも、できないんじゃないかと思いますね」

 今は過渡期だが、未来を悲観しているわけではない。

「私たちで底を打つんじゃないですか、晩婚化も少子化も。若い人は我々を反面教師としていく気がします。男尊女子もそれなりの割合では残ると思いますが、もっと積極的に自分から男性を獲得しに行く人も増えるでしょう」

 男女関係にもやもやするものを抱えている人には、男女問わずお薦めしたい。(ライター・濱野奈美子)

AERA 2017年7月17日号