●またと暮らしたい

 以前は猫と暮らしていた。

「人懐っこい、怒ることを知らない優しい猫でした。20歳まで生きました。ペットロスにもなったけど、仕事で家を空けることを考えると切なくて。また飼いたいなあと思いながらもう10年以上になりますね」

 独りテレビに怒ることもある。

「さすがに精神衛生上よくないなあと思って、このごろはいやなニュースは全部チャンネルを変えてしまうのですが、それがいいのか悪いのか」

 現在、64歳。40代からおばあさん役をやってきた。

「全然いやじゃなかったですよ。素じゃなく出られるほうがちょっと楽というか。そうじゃないと『恥ずかしい』気持ちが先に立っちゃうんです。扮装してやれるなら、それに紛れたい。でも、もうほとんど老年がリアルになってきてるから」  
 それはそれで楽しい、と笑う。

「動作遅くなるよねえ、字が見えなくなるよねえとか、もう実感としてありますからね。いままでは外郭のおもしろさだけで『楽しい』と思ってたことが、内側に入ってきたというか」

 昨年春、93歳の母を看取った。これからのことを考えますか?

「もうなるようにしかならないですよ。開き直ってます」

 なんだか力が湧いてきた。(ライター・中村千晶)

AERA 2017年7月17日号