同社の顧客は上海や北京、香港など、沿岸部に住む人が多い。13年から14年には中国人客が急増。成約額は、14年に前年の12.5倍の57億4900万円に跳ね上がった。活況の背景にあるのは、激増した訪日中国人客。20年の東京オリンピックの開催決定で不動産市場への期待感も高まった。日本が“近く”なったことで投資対象としても意識し始めたのだ。実際、旅行などで訪日経験をした後に投資するケースがほとんどという。

 上野駅からほど近い、タクシーが頻繁に行き交う通り沿いに、一台の白いベンツが乗りつけた。重厚感ある8階建てオフィスビルの前。降り立ったのは、40代の北京在住の資産家男性。短髪でチェックのシャツにハーフパンツ、スニーカーというラフな格好だが、バッグは高級ブランドのコーチ。中国では貿易会社と飲食店を経営し、数十億円程度の賃貸オフィスビルの購入のため、下見に訪れたという。

 見学したのは空室の8階部分。広々としたオフィスの中をやや大股に歩きつつ窓際へ。

「公園の入り口は近いのか。窓も開けてみてもらえる?」

 男性は矢継ぎ早に質問し、本題に入った。

「価格は?」

 社員から回答を聞くなり、また質問をする。

 この物件の頭金は10億円超。「数千万から億単位の数字」を瞬時に計算し、投資回収に20年かかると判断した男性は、少し渋い表情を浮かべ始める。それでも反対側の窓へ歩み寄って外を眺めるなど、周辺環境のチェックには余念がない。

「駅から近く環境もいいから、ここはスポーツジムにいいかも」

 リラックスした様子で歩き、大きな手ぶりで話す男性だが、数字や条件を尋ねる時の顔は鋭さもある。一区切りついたところで男性に、日本の不動産に関心を持った理由を尋ねると、男性は迷いなくこう答えた。

「安いから」

 上野駅から徒歩3分ほどの一等地だが、かなり安いというのだ。こうも言う。

「ビルの品質もいい。東京オリンピックもあって、不動産市場は活気づいている。賃料も下がらないだろう。女性も美しいしね。一棟ものを買いたい」

 茶目っ気もある。そこでもっと詳しく聞いてみた。

次のページ