患者と向き合う、大西医師。多くの遺族が「後悔」を口にするという。近著に『遺族外来 大切な人を失っても』(河出書房新社)(撮影/写真部・小原雄輝)
患者と向き合う、大西医師。多くの遺族が「後悔」を口にするという。近著に『遺族外来 大切な人を失っても』(河出書房新社)(撮影/写真部・小原雄輝)

 親の看取りは誰しもが経験するもの。しかし、ゆっくりと最期のお別れをすることができなかったと、後悔する人は多い。まだまだ元気だからと、話し合わずにいると、その日は急にやってくる。お墓のこと、相続のこと、延命措置のこと、そろそろ話し合ってみませんか? AERA 2017年7月10日号では「後悔しない親との別れ」を大特集。家族を亡くした遺族も医療で支えるという「遺族外来」を取材した。

*  *  *

「私は、母を幸せにできなかったのでしょうか……」

 昨年6月、都内に住む女性(40代)は、埼玉医科大学国際医療センター(埼玉県日高市)の「遺族外来」を訪ね、大西秀樹医師にそう尋ねた。

 女性は数週間前に母親(70代)をがんで亡くした。母娘の2人暮らしだったが、仕事が忙しく、治療中もなかなか付き添えなかったという。亡くなる数カ月前も長期で出張。最期まで十分な看病ができず、母親を幸せにすることができなかったのではと後悔していた。

●死別は最大のストレス

 女性に向き合う大西医師は、穏やかな口調で語りかけた。

「子どものころ、お母さんとの仲はどうでしたか?」

「よかったです」

「お母さんが病気になってからはどうでしたか?」

「よかったです」

「最期、お母さんはあなたに何と話してましたか?」

「あなたと一緒にいて幸せだったって、そう言いました」

 そうしたやりとりの後、大西医師は言った。

「あなたはお母さんを幸せにしましたね」

 その一言を聞くと、女性はホッとした表情で言った。

「ああ、そうかあ」

 人にとって「死別」は最大のストレス。修復不可能な喪失ゆえ、遺族は悲しみに打ちひしがれ、うつなどの症状も出る。こうした人たちに専門治療を施すのが「遺族外来」だ。精神腫瘍医としてがん患者の心のケアに当たってきた大西医師が2007年、初めて設置したという。その大西医師はこう訴える。

「実際、家族は『第二の患者』と呼ばれるくらい、傷つき苦しみます。愛する人を失った家族の心は、患者と同様にケアが必要。遺族にも支えが必要です」

●「心」を吐露し整理する

 遺族外来への来院者の平均年齢は50歳前後。8割が女性だ。配偶者を失った遺族が6割近く、親を亡くした遺族は約3割。残りは子どもや婚約者を亡くした遺族という。この10年間で約250人が来院した。県外からの来院者も多い。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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