「1軒あたり2、3分ほどでしたが、父を知る人々から、『無事に終わってよかったね』『いろいろお世話になったね』と言われ、ジーンときた。父の死と向き合えたように思いました」

 地域のしきたりがかえってよかったという人はほかにもいる。「母が亡くなったとき、はじめは家族葬をと考えていた」という女性(46)は、福島県会津地方出身。隣組も残る農村部で、親戚の結び付きも強かった。

「お手伝い体制も決まっていて、葬儀もお手伝いが必要なシステムだったんです。一族の長老が葬儀を仕切る習慣があり、その役にあたる叔父は知らせを聞いてすぐに病院に来て、段取りをしてくれていました」

 結局、近隣の人が多く参列し、一般葬に近いかたちになった。

「私と姉も忙しく、悲しむ暇がないのを少し残念に思いました。けれど、父は『最期に賑やかに送ってもらえてよかった』と言っていた。父の意向に添えてよかったと思っています」

 こんな話もある。埼玉県在住の男性(70)は、京都で独居だった父の葬儀の喪主を務めた。90を過ぎた大往生だったが、近隣は高齢者ばかりで、通夜時に町内会からバスが出て、焼香をして帰っていった。男性にきょうだいはおらず、親戚も妻側の親族ばかり。さみしい通夜と覚悟していた。だが、九州からやってきた親戚たちは、通夜ぶるまいの席に留まり、話し、杯を重ね続けた。酒を何度も買い足した。

「斎場の係員には『まだ飲むのですか。京都の人はあまり長くしないのですが』と呆れられましたが、心情的にはありがたかった」

●地域により火葬も様々

 葬送儀礼は地域によってさまざまだ。親を送る以外にも、違う土地で行われる配偶者や親戚の葬儀に出て、戸惑ったという報告は数多い。

 葬儀専門サイト「いい葬儀」を運営する鎌倉新書のコンテンツディレクター、小林憲行さんはこう語る。

「全国の葬儀社や体験者の声、アンケート調査の結果などを見ると、葬送儀礼は地域によってかなり細かく異なり、厳密にどこにどの慣習があるとは言えません。火葬をいつ行うかも、地域によって異なるのです」

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