●原理を考え情報共有も

 おいしい料理を生み出すために、料理を科学する──。伏木さんはそのために必要なことを三つ挙げる。

「理論的に考える。原理を考える。客観的な方法で情報共有をする」

 実際に、料理を計測してみると、「だいたいは、今までやっていたことの理由がわかることが多い」と、前出の「木乃婦」店主の高橋さんは話す。高橋さんは伝統的な和食の料亭ながら、フカヒレを使った料理をヒットさせたことで知られる。

 実は、高橋さんの料理の科学思考は大学院仕込みだ。伏木さんの研究会に参加するうちに、もっと勉強したいと、当時伏木さんが勤めていた京都大学大学院の試験を受けて、入学したのだ。農学研究科で学ぶと同時に研究にも取り組み、和食を食べているときの心理効果の研究で14年には修士号を取得した。

 最近の高橋さんの関心は「香り」。和食の基本である出汁のもととなる昆布と鰹節のそれぞれの香りを分析した。匂い成分は複数の化学物質から成り立っている。匂い成分の分子量ごとにそれぞれを分けてみた。

 その結果、鰹節では分子量が1カ所にかたまっているが、昆布ではさまざまな分子量の匂い成分が複数含まれていることがわかった。

「和食の調理では、ほとんどの料理に昆布を入れますが、これは、いろんな匂いが含まれているからなんですね。一方で、鰹節は合う食材が限定されています。これは鰹節では匂い成分が限られているためだったんです」

●「おいしさ」をデータ化

 こうした、料理人として経験的に培っていた調理法から、その理由がわかることで、新たな料理を生み出すアイデアにつながるのだという。さらに、調理の原理を考えることで、料理を新しく作り出すことにもつながった。例えば、砂糖なしのかぼちゃのアイス。

「かぼちゃには、でんぷんが含まれます。40度くらいで発酵させるとでんぷんが糖化して甘みが出てくるんです。これだけで砂糖を入れなくても甘いアイスを作れると思いつきました」

 料理やおいしさの科学は新しい試みだが、食品を科学して品質管理に取り組む歴史は長い。1952年から小麦粉の品質管理の研究に取り組む、日本製粉のフードリサーチセンター基礎技術研究所を訪ねた。

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