どんな状態になろうとこれまで貫き通してきたことをやり切ったことで土壇場で見事なV字回復を果たした(※写真はイメージ)
どんな状態になろうとこれまで貫き通してきたことをやり切ったことで土壇場で見事なV字回復を果たした(※写真はイメージ)

 地に落ちたイメージを回復させて、業績も上向かせる……。これまで、多くの企業が直面し、その実現に腐心してきた。これは、個人の場合でも同じこと。落ち込んだ底が深ければ深いほど、復活には時間がかかる。AERA 2017年7月3日号では、「どん底からの脱出」と銘打ち、見事V字回復した企業を大特集。そのとき企業は、個人は、何を考え、どう振る舞うべきなのか。当事者たちの話を聞いた。

 アイデンティティーに彷徨い、襲い掛かる病に倒れ、激しいバッシングにさらされる。辛酸をなめながら、それでも歩み続けた人を支えたものは何なのか。今回は、スランプを乗り越え、サッカー日本代表のGKとして、みごと復活を遂げた川島永嗣選手を紹介。

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 3月のサッカーW杯アジア最終予選。アウェーでの対UAE戦で、GK川島永嗣(34)が先発に復帰したことは大きな驚きだった。

 川島はW杯で2010年南アフリカ大会と14年ブラジル大会の2大会続けて、日本代表の全試合でゴールを守ってきた守護神。しかし、15年にそれまで在籍していたベルギーのクラブを退団してからは、所属クラブが見つからない状態が続く“浪人”やスコットランドリーグでの2部降格を経験し、16年8月に現在所属するフランスのメスに移籍してからも、実質3番手のGKに甘んじ実戦から遠ざかっていた。一時は日本代表メンバーからも外れ、昨秋に復帰はしたものの、立場は控えに変わっていた。川島がUAE戦の前に、今季クラブで出場していた公式戦はわずか1試合。いくら経験のあるベテランとはいえ、確実に勝たなければならない大一番での抜擢は、あまりにリスクが大きいと思われた。

 しかし、川島は周囲の不安をよそに、堂々としたプレーで幾度かの決定機を防ぎ、勝利の立役者になると、続く5日後のホームでのタイ戦でもPKストップを含む好守を連発した。

 その活躍が評価されたこともあり、その後は半ば戦力外になっていた所属クラブでも正GKに返り咲き、親善試合のシリア戦(6月7日)、直近のW杯最終予選のイラク戦(6月13日)でもゴールマウスに立っている。

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