「M&Aで1+1が2になった場合、事業や人員が重複する。そこで人を減らせば利益は出るが、長続きはしない。特定部門から人を減らすとしても、会社から出すのではなく、新たな事業分野を見いだしてその部門に配置する。相乗効果を生み出していける会社が回復した業績を長く維持していけるのです。継続的に次の商品開発を進めていく必要があり、そのためにも、人員はある程度確保しておくことが重要です」

 いい意味での「主体的な他力本願」が新分野で成功する秘訣。

「外部に目を向けて回復の材料を見つけてくることが、これからの経営者に必要な能力だと思います」(友田さん)

●外部から新しい視点を

 その意味で米倉さんがカギと見るのは「外部人材の活用」だ。

「大企業の優れた経営者ほど、新たな動きを見逃してしまう。強固なバリューチェーンを作り上げることで地位を築いてきたが、新たな観点での競争を仕掛けられたとき、問題に気づくことができないのです」

 例えば、自動車メーカーなら、米テスラが作る電気自動車を「自動車」ととらえるか、「車輪が付いたiPhone」ととらえるかで、戦い方は変わってくるというわけだ。

「業種の垣根を越えた取り組みを行っていくには、やはり内部人材でまかなうのは限界がある。異業種を含め、外部から経営のプロを招いて回復を図るケースは今後も増えていくでしょう」(米倉さん)

 従来は、内部から社長に上りつめ、既存事業を立て直して業績回復を図るのが一般的だった。昨今は、外部から招聘された社長が新たな視点で既存事業に挑んだり、内部昇進の社長が従来とは異なる事業を立ち上げたりするケースが目立つ。
「大手企業は年功序列。組織の系列が整っているだけに、大胆に組み替えることが難しい。特に内部昇進の経営者はしがらみにとらわれて思い切った改革に踏み切りづらいが、外部から来たトップはそれができる。しかも、その会社にこれまでなかった新しい視点を持って、ポテンシャルを引き出せるという強みがあります」(同)

 V字回復請負人の時代が来る、ということだ。

(ライター・青木典子)

AERA 2017年7月3日号