●大人とはかくありたい

横山:僕は普通のサラリーマン家庭。弟と妹がいたので、僕が音楽大学に行くのは経済的に大変でした。父は早くに両親を亡くして、自分の兄が着ていた制服で学生時代を過ごしたと聞いています。子どもには好きなことをさせたいという思いで、僕が音大に進みたいと言ったときも「本当に好きなことなら精いっぱい応援する。頑張りなさい」と言ってくれた。好きなことを頑張ることが親への感謝。この本を読むと、そういうことを思い出して胸が熱くなるんです。

西村:大人とはかくありたいって思います。子どもと大人の違いってたくさんありますけど、子どもが絶対に越えられない壁が、実はお金だったりする。思いやりや愛情が必要なことは当たり前ですが、大人の特権であるお金というもので、子どもが救われることもあるという現実的な解決も実にケストナーらしい。ヨナタンはどうですか。

横山:4歳で親に捨てられてしまうという経験は想像できないですよね。でも、大人になってから、家族って血がつながっているかどうかじゃなくて、大切な時間をどれだけ過ごしたかだとすごく思います。

西村:この作品に描かれているものって、小さな絶望だと思っているんですよ。ヨナタンの人生は絶望から始まってるし、マルチンは貧しい。その子なりの絶望がちゃんと描かれている。いい一文がありますよね。

<人生では、なんで悲しむかということはけっして問題でなく、どんなに悲しむかということだけが問題です。子どもの涙はけっしておとなの涙より小さいものではなく、おとなの涙より重いことだって、めずらしくありません>(高橋健二訳、岩波書店版)

(構成/AERA dot.編集部・金城珠代)

西村義明が指摘する「となりのトトロ」が描いた絶望 横山だいすけ×西村義明対談へつづく

AERA 2017年6月26日号